再出発の“兄貴”

新天地にやりがいを求めた男は、果たして開幕戦で少なからぬ存在感を示して勝利に貢献した。
名古屋ダイヤモンドドルフィンズの柏木真介である。
「正直な話、早く優勝を狙うのであれば(シーホース)三河に残ったほうが早かったですよ。ただ名古屋Dに来て違う意味で楽しさがありますよね」
Bリーグ2年目の開幕戦、川崎ブレイブサンダーズに77-76で競り勝ったあと、柏木はそう語った。

試合は序盤から名古屋Dが優勢に進めていく。
柏木も、ケガ明けの正ポイントガード、笹山貴哉にプレイタイムの制限があることから、第1Qの途中からコートに送り込まれた。
優位な流れを変えることなく、第2Qの中盤には再びベンチに戻っている。
良い流れには棹をさし、悪い流れはせき止める。
そうしたシックスマンの役割はけっして簡単なことでない。
中央大学を卒業後、日立サンロッカーズ(現サンロッカーズ渋谷)、アイシンシーホース(現シーホース三河)で酸いも甘いも経験したベテランの柏木だからこそ、この日の名古屋Dの前半をよりよくまとめられることができたのだろう。
むろん相手は昨シーズンの準優勝チーム、川崎である。
数名の選手の入れ替えはあったものの、核となる選手は替わらない。
北卓也ヘッドコーチも同チームを率いて7年目となる。
前半の16点差はまだ射程距離の内側だった。
後半、ディフェンスの強度を上げられると、徐々にその差は詰まっていく。
柏木もハーフタイムに
「後半は前半のように入れると思わないほうがいい」
若い選手たちにそう伝えていたが、彼らはそれを十分には理解できていなかった。
名古屋Dベンチも柏木を再投入するが、彼もまた川崎の反撃を食い止めることができなかった。
さらに名古屋Dのキャプテン、ジャスティン・バーレルがファウルコールに不服の態度を見せ、テクニカルファウルを取られてしまう。
「あそこが1つのポイントでしたよね」
柏木はそう振り返る。
「あれが昨シーズンまでの名古屋Dの悪いところなんだろうなと、やりながら感じていました。あのあとで逆転までされてしまったわけだけど、あそこで何をしなければいけないかが今後の名古屋Dの課題なんだと思います」
外側にいたほうがよく見えることもある。
昨シーズンまで対戦する側から名古屋Dというチームを見ていたからこそ、内側に入ってみて柏木はその弱さが鮮明に見えてきた。
ならばと、名古屋Dの柏木はディフェンスへの意識を強めた。
耐えることで次にやってくる波を得ようと考えたわけだ。
しかしチームとしてそれを機能させることができず、第4Qに逆転を許してしまう。

結果として、チームの流れを崩したバーレルが第4Qの残り2.7秒で再逆転のシュートを決めて名古屋Dが勝利を決める。
勝利自体は嬉しいが、内容はまだまだ修正すべき点が多いと柏木は言う。
チームだけのことではない。
柏木自身の反省も含めて、である。
それは安易なターンオーバーや、スピードのある選手とはいえ、抵抗することなく簡単に抜かれる場面を示しているのかもしれない。
またはバーレルがテクニカルファウルを取られたとき、我慢の時間帯であることをチームに伝えきれなかったことを悔いているのかもしれない。
ただ後者については
「若い選手に対して1から10まですべてを口で言うつもりはありません。言うべきところでは言いますが、言わなくていいところでは自分たちで考えさせるように仕向けることも大事。そういったバランスを取ることでしかチームは変わらないと思います」
これがベテランの矜持というやつなのだろう。
優勝も、準優勝も、それ以外も経験した柏木だからこそ言える言葉でもある。

翌日におこなわれた川崎との第2戦でも名古屋Dは終盤に追いつき、延長戦まで持ち込んでいる。
連勝とはならなかったが、粘りを見せたことは今後につながる。
柏木もそう考えているに違いない。
接戦を勝ち切った初戦も、追いついたあと追い越せなかった第2戦も、すべてはチームの血肉となるのだ。

11年在籍し、その後に入ってきた三河の選手たちは成熟に近づき、自分たちで考えられるようになった。
そう感じながら、一方で自分の体はまだまだ動く。
ならば引退を考える必要はない。
柏木がやりがいを求めて、名古屋Dの門を叩いたのはそういう理由からだった。
「名古屋Dはこれから強くなっていくチームだなと感じたんです。ただ何をしなければ勝てないかがまだわかっていない。そういうところを教えながら、強くなっていく過程に自分がいることはすごくやりがいがある。そういうことを含めて、今、バスケットがすごく楽しくやれています」
三河ではケガが重なり、徐々にその存在感が薄れつつあったが、移籍した今シーズンは近年にないほどコンディションがいいと言う。
ケガした箇所が痛みを発症することも、今のところはない。
そうなると、彼のフィジカルとクイックネスを兼ね備えた激しいディフェンスを期待してしまう。
それが名古屋Dにもたらす影響も大きいはずだ。

チームメイトだけでなく、ファンからもすでに「兄貴」と慕われる柏木。
Bリーグには田臥勇太(栃木ブレックス)、篠山竜青(川崎)、富樫勇樹(千葉ジェッツ)、田渡凌(横浜ビーコルセアーズ)といった注目されるポイントガードが多い。
しかしシックスマンながら存在感を示せる“名古屋Dの兄貴”も忘れてはいけないポイントガードの一人である。

名古屋ダイヤモンドドルフィンズ

文・三上太/写真・安井麻実