「ダシツクセ!」2人の外国籍選手を欠いた京都が見せた”誇れる敗戦”

どんな試合であっても敗戦は悔しい。それは選手だけではなく、はるばる応援に駆け付けたブースターもまた同じだろう。だが、5月13日、敗れた京都ハンナリーズの応援席には清々しい笑顔が目立った。優勝候補の一角に挙げられるアルバルク東京を相手に、今ある力を出し尽くし、今できることをやり尽くした京都。アウェーの地で大声援を送り続けたブースターにとって、それは悔しくも『誇れる敗戦』だったのではないだろうか。

チャンピオンシップ目前にジョシュア・スミスが5試合出場停止

最初の”事件”は5月2日の西宮ストークス戦で起こった。第2Q途中ジョシュア・スミスがフラストレーションをぶつけるように思い切り叩いたゲージ(予備のボールを入れ、コートエンドに置かれているボールゲージ)中のボールが近くの観客を直撃。テクニカルファウルの判定を受け即時退場となったスミスは、課せられるペナルティの通告を待つことになった。
「レギュラーシーズン最後のアルバルク戦に向かうため、金曜日(4日)にはジョシュアを含めた全員が京都駅に集合しました。もちろんジョシュアのペナルティは覚悟していましたが、正直2試合ほどの出場停止になるのではと思っていました」(浜口炎HC)

ところが、その場に届いたのは『5試合出場停止』の通告。スミスをそのまま家に帰して東京に向かうことにしたが、チームに走った衝撃は大きかった。205cm、138kgの体を生かしゴール下で存在感を見せつけた(平均16.8得点、9.4リバウンド)スミスを欠く痛手は計り知れない。
「彼は文字通り大黒柱ですし、アルバルク戦でもかなりアドバンテージを取れた選手です。そのスミスを失ったことのマイナスを誰もがわかっていました。仕方のないこととは言え、5試合出場停止と聞いたときのショックは大きかったです」(岡田優介)

選手たちの気持ちがようやく整理されたのは翌週の練習開始から。キャプテンの内海慎吾が「ジョシュアはこれまで58試合1度も休むことなく試合に出てチームに貢献してくれた。今度はそのジョシュアの分も俺たちが頑張る番だ」と声をかけると、練習にも活気が戻り「メンタルに関しては非常にいい状況でチャンピオンシップに向かえたと思います」(浜口HC)。『クォーターファイナルを勝ち抜いてジョシュアの帰りを待とう』――それがチームの合言葉になった。

第1戦でジュリアン・マブンガも欠く結果に

そして、迎えたクォーターファイナル第1戦。「個人的に言えば、今までなら4Qの勝負所のために体力を温存しておこうという計算がありましたが、今日は最初からフルパワーで行くと決めていました」という岡田が1Qだけで3本の3Pシュートを沈めてチームを勢いづかせると、前半を45-34とリードして折り返した。しかし、後半に入るとA東京は田中大貴がエースの意地を見せる。京都の守りを揺さぶる田中の活躍でA東京は二桁差を覆し54-59と逆転に成功。疲れの色が見え始めた京都は再逆転のチャンスをつかめないまま75-82でこの一戦を落とした。さらに追いうちをかけたのは、試合終了間際にアンスポーツマンライクファウルとテクニカルファウルを取られたジュリアン・マブンガが次戦出場停止の通告を受けたことだ。スミスに続き、平均15.6得点で勝利に貢献してきたマブンガを失うことは京都にとって『敗戦宣告』を突き付けられたに等しかった。

しかし、翌13日の第2戦、京都は粘り強いプレーで「あきらめていない」ことを示す。A東京が終始リードを奪う展開の中、3Q残り6分には36-56と20点差がつくが、タイムアウトをはさんで片岡大晴が3Pを決めると、永吉佑也が4本のフリースローをきっちり沈め、内海の3P、伊藤達哉のスティールからの速攻で押し返す。チーム状態を含めた”戦力”で言えば大差がついても不思議はなかった一戦で、3Qは18-18のイーブン、4Qは21-15と上回った。最後は69-78で力尽きたものの「やるべきことはすべてやった」(浜口HC)の言葉にはクォーターファイナルを戦う京都のプライドが感じられ、それはまた見る者にたしかに伝わったと言える。

ルーキー伊藤達哉を筆頭にチームが成長できたシーズン

この試合でマーカス・ダブとともにゲームハイの18得点を稼いだ伊藤達哉は前日の試合と同様30分以上コートに立ち、試合後「1Qの残り2分ぐらいに足に来て、初めて自分から交代させてほしいと言いました」と打ち明けたが、再びコートに戻った後はそんな様子を微塵も感じさせないアグレッシブなプレーでチームを牽引した。ルーキーでありながらレギュラーシーズン60試合中58試合にいずれもスタメン出場。先輩PGの綿貫瞬がケガで戦列離脱した後はその肩に背負うものも重くなったが、「コートに出たら自分がルーキーだという意識はありません」と、きっぱり言い放ち、その頼もしい言葉を裏切ることなく、この1年で着実な成長を見せた。

伊藤のみならず若手選手の成長についてベテラン岡田と浜口HCはこう語る。「チームがどんどん良くなっていくシーズンでした。伊藤を筆頭に若い選手がすごく成長して、チームワークも良くなり、後半になればなるほどチーム力が上がっていった感があります。ベテランの役割として(チームが)バタバタしていた序盤はみんなを落ち着かせることも必要でしたが、徐々に何も言わなくてもマッチできるようになり、最後はほとんどゲームメイクを任せ、自分の仕事に注力できるようになりました」(岡田)、「メンバーが大幅に入れ替わった今シーズンは、当初どうなることかと不安でしたが、同時に楽しみでもありました。ケガ人が多く出た後半戦は、いない誰かに代わって誰かがステップアップしてくれた。試合を重ねるごとに選手たちの成長を実感できた1年でした」(浜口HC)

そんなチームであったからこそ、最後まで全員で戦い、勝っても負けても互いの健闘を称え「ハグして終わりたかった」(浜口HC)という思いは強い。だが、ルールとして出場停止となった選手のロッカールームの立ち入りは禁止されており、マブンガは隣りの部屋にいながら、お疲れさまの輪に加わることはできなかった。
「それが1番残念。悔いが残るとしたらそれだけです」(浜口HC)

どんな試合であっても敗戦は悔しい。それがチャンピオンシップの大舞台なら尚さらだろう。だが、アウェーの地で”絶対不利”な試合に挑んだ京都は、チームスローガンの『ダシツクセ』にふさわしい戦いを見せた。「戦う仲間たちの姿勢を見たとき、後押ししてくれるブースターさんの声援を聞いたとき、胸にぐっとこみ上げるものがあった」――いつもは冷静に試合を振り返る岡田の口からこぼれた言葉は、死力を尽くした京都を物語っていたように思う。

文・松原貴実 写真・吉田宗彦