アリーナ・オブ・ドリームス

Text by Seiichi Izumi

「それをつくれば、彼が来る」
聞こえるはずのない声が聞こえてしまう主人公のケビン・コスナーが、言われるがままに自分の農地を使って野球場をつくってしまう。すると、死んだはずの人たちが集まってくるという映画『フィールド・オブ・ドリームス』。この作品を見たのは四半世紀も前であり、筆者の記憶はあやふやだが、ホラー映画ではないことと名作であることは間違いない。今年、話題を集めているあのスタジアムや、改革が進むバスケ界にとっても相通じるものがある。

今秋より開幕するBリーグの1部参入条件の一つに、「ホームアリーナの入場可能数5,000人」が明言されている。5月11日、Bリーグを通じて各クラブのホームアリーナが発表された。既存の体育館に設置された座席数だけでは5,000人に満たないケースも多く、どのようなレイアウトで条件をクリアするのかは楽しみである。だが、いっそのこと新しいアリーナを建ててしまいたい、という思いはないだろうか。
そんな願いを寄付金によって現実にしたのが、市立吹田サッカースタジアムである。

昨年のタスクフォース会議で、川淵 三郎チェアマン(現JBA会長が)が5,000人アリーナの必要性を説いた時、磔(はりつけ)になっても反対と批判した知事がいた。税金を使う自治体を動かすのは容易ではない。ならば、自分たちで建設費を工面してつくってしまおうという市立吹田スタジアムの発想に目から鱗が落ちる。
五月晴れとなった連休初日、スポーツビジネスアカデミー(https://spobiz.ac/)がスタジアム建設募金団体 代表理事を務めた金森 喜久男氏を講師に迎え、その全容を紹介するセミナーを実施。すでにご存知の方も多いとは思うが、お話を伺えば伺うほど、バスケを愛するスピリッツ読者にこそ知って欲しいという思いは募る。ご無理を聞いてくださった金森氏とスポーツビジネスアカデミー事務局に感謝し、ここに全容のほんの一部をご紹介させていただこう。

金森 喜久男氏(写真提供:スポーツビジネスアカデミー事務局)

金森 喜久男氏(写真提供:スポーツビジネスアカデミー事務局)

目標額は140億円!

デンカビッグスワンスタジアム(収容人数:42,300人)は約300億円。神戸ウイングスタジアム(収容人数:最大約42,000人)は約230億円。大阪に新たなる4万人収容可能なサッカースタジアム建設を目指し、目標額140億円に向けた募金活動が始まった。しかし、先に挙げた2つの同クラスのスタジアムと比較すれば分かるように、建設費は半額以下や100億円以上も安い。140億円と見積もられた経緯を聞いて、それも納得する。
建設コンストラクションマネージャーとして安井建設設計事務所と提携し、プロの目でスタジアム建設を検討し、明確な数字が算出された。寄付を始める段階から目指すべきスタジアムの規模や条件、そして必要経費が明らかになれば信頼にもつながる。

ガンバ大阪の社長でもあった金森氏だが、母体企業となるパナソニックはもちろん、敵対するクラブを支援する企業など広く寄付金を集めることに成功。あくまでもガンバ大阪のためのスタジアムではなく、「スポーツを通じて大阪に活力を!」という大義名分を掲げたことで、関西経済連合や大阪の他のスポーツ界からの強力な協力を得られたことは大きかった。大阪に多くの国際大会を誘致するため、公共施設を地域で活用するためであることを強調したことが、様々な企業の理解につながり、目標額達成に拍車をかける。

企業からの寄付金は目標額の約7割を占める99.5億円を集め、さらに個人寄付金6.22億円と助成金33.15億円を合わせて140億円をクリアした。スタジアムの仕様や上限コスト、選定条件を明確にした上で、「指名型プロポーザル方式」を採用し、建設業者を募集。団体理事と建設委員の透明性ある投票によって、竹中工務店が建設を請け負うことが決定する。同団体の理事であり、立役者の一人でもある川淵 三郎JBA会長は、各企業の熱意がこもったサッカースタジアムのプランを見て、「(日本サッカーも)ここまで来たか」と感動したそうだ。

4万人スタジアムをつくれば、世界がやって来る

なぜ、新たなるスタジアムが必要だったのか?
「第一に、お客様に迫力ある面白い試合を観ていただくため、第二に関西に本格的なスタジアムを建設し多くの大会を誘致するため、第三に地域のシンボルとなる拠りどころをつくるため、第四にプロクラブとしての自立経営を実現するために絶対にやり遂げないといけないものでした」と金森氏の著書『スポーツ事業マネジメントの基礎知識』(東邦出版/amazon→ http://amzn.to/26UVZiU)に書かれている。ワールドカップの開催基準を充たした収容人数4万人をつくることで、4つ挙げられた理由が全て解決される。

アルベルト・ザッケローニ元サッカー日本代表監督が、「埼スタ(埼玉スタジアム2020)はホームコートアドバンテージとして最高だが、同じようなスタジアムが日本には他にない」と話しているのを聞いた金森氏。市立吹田スタジアム誕生により、来月6月7日にはキリンカップサッカー2016が行われ、サッカー日本代表の新たなるホームスタジアムとして活用が始まる。サッカーだけではない。2019年ラグビーワールドカップや、2020年東京オリンピック・パラリンピックでも活用される予定のようだ。金森氏が掲げた「ワールドクラスのイベントを呼べるスタジアムづくり」を果たし、関西の“シンボルスタジアム”となった。

スタジアムを新しくしたことで集客数が増えた例は少なくない。金森氏のセミナーでも紹介された広島カープの本拠地であるマツダスタジアムは、今シーズンこれまで平均28,496人の観客動員数(5月7日現在)を誇り、約86%の座席を毎回埋めている。広島市民球場の頃と比較すると倍近い集客を獲得。「クラブ努力もあるが──」と前置きした上で金森氏は、「良いスタジアムができれば、集客が伸びる」と自信を見せていた。

スタジアムの環境整備をすることで、一番喜ぶのは選手たち。映画「フィールド・オブ・ドリームス」でも、野球場をつくったことで往年のメジャーリーガーがこぞって集まってきた。サッカーもバスケも選手生命は短い。ならば最高の環境でプレイさせてあげたい。観客と選手のためを思ってつくられた夢のスタジアムは、スポーツビジネスアカデミーで学べる“フィールドマネジメント”と“ビジネスマネジメント”の両輪で、パフォーマンス向上が約束されていると言えよう。

アリーナの指定管理者となり、スポーツと文化で街を豊かに!

新たに建設するのはとても高いハードルだが、今あるアリーナを自由に管理できれば解決される問題も多くある。実際、寄付金で建設された市立吹田スタジアムは吹田市へ寄贈され、ガンバ大阪の持ち家ではなく、公共施設だ。ガンバ大阪の運営会社が指定管理者となり、ホームゲームに限らず、スタジアムの運営や管理を行っている。
80年の歴史があるプロ野球でさえ、スタジアムを自由に活用できないケースは多い。公共体育館を使用するバスケでも、飲食ができないところやスポンサーを集めてもその看板を出すことで1箇所あたりに別途費用が発生するなど、自由が利かないこともクラブ経営が好転できない要因である。今後、指定管理者となって、アリーナビジネスをベースに発展していくクラブの台頭に期待したい。

大阪エヴェッサは、2015年4月より府民共済SUPERアリーナ(舞洲アリーナ)と10年間の定期賃貸借契約を締結。運営会社のヒューマンプランニング株式会社がアリーナの指定管理者となっており、今後のバスケビジネスのモデルケースとなるだろう。
京都ハンナリーズの運営会社であるスポーツコミュニケーションKYOTO株式会社が命名権を取得したハンナリーズアリーナ。宇都宮市がプロスポーツ応援事業としてブレックスアリーナ宇都宮と命名し、自治体からの支援を得られるケースもある。また、必須条件である5000人アリーナを手にするため、琉球ゴールデンキングスは沖縄多目的アリーナ事業を進め、秋田ノーザンハピネッツは秋田2024アリーナ構想を打ち立てた。

今年は2016年問題として、音楽ライブ会場が改修工事や閉館により、アーティストたちが行き場を失っている。アリーナ環境が整備されればその問題も解決でき、バスケ界が救世主にもなれる。現JBA副会長である小野 清子氏は体操、三屋 裕子氏はバレーボールのそれぞれオリンピアンという立場を最大限活用し、他競技とともにアリーナを発展させることだってできる。
新たに建設しなくても、指定管理者にならなくても、まだまだ改善できる余地は残っている。ガンバ大阪社長時代の金森氏は観客の視線に立って、多く寄せられていた万博記念競技場のクレーム改善に知恵を絞った。その奮闘も、著書『スポーツ事業マネジメントの基礎知識』(東邦出版/amazon→ http://amzn.to/26UVZiU)では詳細に描かれており、Bリーグ各クラブにとっても参考になるはずだ。
昨今は役所が管理するだけではなく、民間企業が指定管理者となって公共施設を運営するケースも増えている。ソフトであるクラブ自体が様々なプランを持って掛け合えば、ハードであるアリーナとの相乗効果も生まれることだろう。

街にアリーナがあれば、スポーツとともに音楽や芸術といった文化を育むことができる。
「それをつくれば、本物が来る」
本物のアスリートや本物のアーティスト、そして本物のバスケ選手を育むためにもアリーナ・オブ・ドリームスを実現しなければならない。

■金森 喜久男氏
スタジアム建設募金団体 代表理事
追手門学院大学 経営学部 教授
パナソニック株式会社 客員
Jリーグ参与
松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)に入社後、北陸支店長、松下電送システム株式会社常務取締役、松下電器産業パナソニックシステムソリューションズ社常務取締役を歴任。2008年〜2013年までガンバ大阪の代表取締役。在任中はAFC委員、プロクラブ委員会委員長も務めた。

■スポーツビジネスアカデミー(SBA)
2020年オリンピック・パラリンピック開催を契機としたスポーツ産業の発展、グローバル化をドライブするスポーツビジネス人材作りを目的として誕生。
「ビジネスマネジメント」事業・営業系マネジメントセミナーとスポーツ×ICT関連セミナー、「フィールドマネジメント」競技系マネジメントセミナーの部門ごとにセミナーを用意。講師は、国内外のスポーツの現場で活躍されるプロフェッショナルな方々。生の声を直接聞くことができるとあり、多くの受講者が参加し、毎回盛況だ。
SBAセミナー講師には、Bリーグ理事の葦原 一正氏も名を連ねている。

https://spobiz.ac/