本当の力は30歳から

伸びしろが多い若い選手をしっかり鍛え、そして成長させることは大事である。しかし、「若返り」という一言で片付けてしまい、経験値の多いベテランを切ることが本当に適切なのだろうか───。

昨シーズン、bjリーグ、JBL、WJBLの3つのリーグにおいて、30歳オーバーの日本人選手は96人(※各リーグのプログラム調べ)。そのうち44人がコンスタントにスターターとして活躍した。かつての日本バスケ界において、30歳がひとつの境界線となっていたが選手生命は確実に伸びて来ている。しかしバスケ発祥の地・アメリカに目を向けると、20年前の1990年代でさえ、30代の選手たちが第一線で活躍していた。もっと言ってしまえば、30代からこそ、さらに活躍し成長しているのだ。

三十路を越えてから本領が発揮されるNBA

1992年バルセロナオリンピックよりプロ選手の参加が解禁となり、日本にもNBAブーム、バスケブームが巻き起こった。その主役となったのがアメリカ代表ドリームチームだ。当時のメンバーの平均年齢は29歳。下は大学生だったクリスチャン・レイトナー22歳から、試合中も腰をいたわりベンチの傍らで腹ばいになっていた姿が印象に残っているラリー・バードが36歳で最高齢。マイケル・ジョーダンら多くの主力選手は三十路を迎えた年であり、ようやく脂が乗り始めた時期。すでにスターであった彼らではあるが、本当に輝き始めたのはこのオリンピック以降のことだ。
バルセロナオリンピックから5年が過ぎた1997-1998シーズン、NBA Finalsはシカゴvsユタのカード。シカゴにはマイケル・ジョーダンとスコッティ・ピペン、対するユタにもカール・マローンとジョン・ストックトンと各2名ずつドリームチームメンバーがいた。当時、ジョーダン、マローンは35歳、ストックトンは36歳であり、ピペンは32歳。30代中盤になっても、世界最高峰にふさわしい戦いを繰り広げたNBAを見れば、若いことが全てではないことは一目瞭然。
それは年月を経た今も同じであり、マイアミvsサンアントニオの今シーズンのNBA Finalsでも、37歳のティム・ダンカンをはじめ、トニー・パーカー、マヌ・ジノビリとベテランたちが素晴らしいプレイを見せつけている。28歳のレブロン・ジェームスもすごいが、まだまだ若いと思うプレイもあるからおもしろい。

歳をとってもフィジカルは落ちない

130611.jpg以前、ゴング格闘技という雑誌で百獣の王・武井 壮さん(40歳)と格闘家・川尻達也選手(35歳)の対談記事を目にした。経験は積み上がられてもフィジカルは年齢とともに劣るのではないか?という記者からの質問に対し、武井さんは「フィジカルはね、落ちないですよ」とキッパリ答えていた。川尻選手もまた「30歳を過ぎるとフィジカルが落ちるとか言う人は、身体を上手く使えるようになったことで、フィジカルをおろそかにする、もともとやっていないとか、そんな言い訳というか別の理由で落ちていると思うんです。フィジカルは鍛えていれば、全然落ちないですもん」と、こちらも断言。さらに武井さんは「オレも上がっていますからね(中略)今また100mのタイムが10秒台まで戻りました。今、100mは20代の頃よりも速いんです」
あるバスケチームのフィジカルコーチにこの話を投げかけたところ、「理論的には当然」という答えが返ってきた。ここ数年、選手生命が全体的に伸びて来ていると感じる日本バスケ界。正しいフィジカルトレーニングの情報が入って来たこと、そしてそれを遂行できる環境が整い始めて来ているのも大きな要因だと言える。

年齢は単なる数字

フィジカルトレーニングが向上したことで、正しい動きができることが一番大きい。走ることや飛ぶことに関して、正しく体を動かせる小中学生が少ないという話を聞いたことがある。自分の記憶を辿っても、当たり前と思える動作をしっかり教えられた覚えはない。バスケ選手は平均よりも身長が高く、体がでかいため、一般と同じことをしていても効果は少ない。バスケにおいて、基礎は大事。その基礎中の基礎が体を正しく動かすことであり、正しい筋力をつけること。体を鍛える情報や環境が浸透してきたことで、当たり前のように選手寿命が長くなっているわけだ。

若いとか、ベテランだからとか、という点について、フィジカルの視点から見ればなんの根拠もないことは、武井さんと川尻選手の対談で分かった。逆に、経験は年齢を重ねなければ身につくことができない。ドリームチームで世界を席巻した多くの選手たちも当時はまだまだ足りない部分が多かったと言える。つまり、年齢は単なる数字でしかないのだ。
フィジカルトレーニングが整備されたことにより、今後はさらに選手生命が伸び、活躍できる年齢幅も広がって行くことだろう。今まさに、体が資本であるバスケ選手たちが戦うための準備をするオフシーズン。その成果を発表する舞台である各リーグもまた、選手たちのフィジカルに負けないだけの体力をつけることで、さらなる繁栄をもたらすはずだ。

text by IZUMI