アジア9位の現実とフィリピンに見た熱い現場

130814a.jpgアジア選手権ではファイナル4に残らなければ、5位でも16位(今大会は開幕直前にFIBAから制裁を受けたレバノンが出場停止となり15チーム参加)でも、その価値は変わらない。準々決勝を勝ち抜いて4強に入ると、ようやく世界の扉に手をかけられる。 今大会であればアジア3位以上にFIBA ワールドカップへの出場権が与えられ、2年後の次回大会の優勝チームはリオデジャネイロ・オリンピック出場、2位と3位には世界最終予選とはいえ世界の強豪との真剣勝負が待ち受ける。 その一歩手前に位置する準決勝こそ、アドレナリン出まくりの真剣勝負。勝てばアジアNo.1を決める決勝へ進み、敗れても3位決定戦で勝てば世界への切符が手に入るわけだ。この4チームによる2日間こそが究極の戦いであり、それを知ってるチームにとって準々決勝までは調整なのである。

アジア各国が躍起になって選手を集めて挑むのは、このアジア選手権のみ。昨年、日本が準優勝になったFIBA ASIA カップも、毎年夏に台湾で開催されるウィリアム・ジョーンズカップも若手の育成や調整を行うための国際大会でしかない。だからこそ世界を賭け、アジアの頂点を賭けた準決勝以降の舞台に立たなければ、本当の意味での経験にはならない。 準々決勝で敗れたり、決勝トーナメント進出を逃した後の順位決定戦では、かなりリラックスして試合に臨むチームも多い。連戦により体調不良やケガをすることも少なくはなく、上を目指す間は無理しても選手たちはコートに立つが、順位決定戦に回るとベンチで過ごすこととなる。ゆえに5位より下はどの順位でも同じなのだ。 今大会は9位で終わった日本だが、この低迷は今に始まったことではない。アジア2位で世界選手権出場を決めた1997年以来、準決勝に進んでおらず、16年間も世界を賭けた本気の試合から遠ざかっている。

開幕戦で敗れて以降、熱さを感じられずに終わった日本

130814c.jpg様々な敗因が挙げられると思うが、技術的なことは専門家に任せるとして、一人のファンとして現場で感じたのは熱が伝わって来なかったこと。諦めていたわけでも、一生懸命やっていなかったわけでもない。他国と比べて技術に格段の差があるとも思えない。 しかし、勝ちたいという気持ちの熱さやチーム一丸となって戦う熱気が、相手を凌駕することは無かった。 日本の武器はスピードと言われるが、よっぽど218cmのハメド・ハダディを擁するイランの方が速攻を走っていた。 準優勝と躍進を遂げたフィリピンの平均身長は192.83cm。日本の195.75cmより約3cmも低い。PGは3人とも176cmしかないが飛び込んでリバウンドを奪う。チャイニーズ・タイペイの平均身長は190.92cmとさらに低い。しかし、シュートが決まればベンチから身を乗り出して全員で喜び、守ってはディフェンスコールをしながらチーム一丸となり、準々決勝で中国を破った。バスケットボールは身長が優位に立つが、身長差があっても闘志がなければメリットにはならない。 そして多くのチームがスローイン時にはボールを叩き、そして選手同士が手を合わせ、幾度となくバチンと大きな音を鳴らす。その一つひとつの動作にも仲間を鼓舞し、モチベーションを高めようとする熱さがビンビン伝わって来る。開幕戦こそ日本も少しは盛り上がりを見せたが、4Qにカタールに逆転を許して以降、そのようなシーンは終ぞ見られることはなかった。

松井 啓十郎、太田 敦也、竹内 公輔、桜井 良太、桜木 ジェイアール以外、7名が初めてアジア選手権に出場。このメンバーで4強に入れば最高の結果を得ることとなり、大きな自信にもつながったことだろう。しかし、決勝トーナメントに行けなかったことで、そんなに甘い世界ではないという現実を突き付けられたのは、不幸中の幸いだったかもしれない。下手に5位や6位で終わって過信されるよりも良かったと言える。

経験をつなぐためにも鈴木ヘッドコーチの続投を

「もう一度、指導者も選手もみんなで努力していかなければ、どんどん厳しくなっていく」*と、危機的状況に警鐘を鳴らす鈴木 貴美一HC。勝てない日本代表において、現時点でのバスケット戦術や選手選考に正解も不正解も無い。ただ、その試みに対しての反省や分析が死ぬほどされておらず、せっかくの経験が積み上げられていないだけだ。 世界に出られない日本にとって、本当の意味での真剣勝負は2年に1度のこのアジア選手権でしか体験できない。しかし、敗れる度にヘッドコーチを変えてきたこの状況では何もつながらず、同じ過ちを繰り返し続けてることは明白だ。鈴木HCも今回で2度目とは言え、6年の月日が流れており、その間もアジアの情勢も大きく変わっている。FIBA ASIA カップやジョーンズカップでアジアを認識したつもりだったかもしれないが、やはりアジア選手権での各国はそれとは違っていた。

準決勝進出は逃したが、日本を率いて7位になった前回大会よりも1つ順位を上げたのはカタールのトーマス・ウィスマンHC。前回大会でヨルダンを準優勝に導いたトーマス・ボールドウィンHCは、今年はフィリピンのアドバイザリーコーチとしてベンチ裏から駆け寄って選手やスタッフにアドバイスを送り続け、2大会連続準優勝。 日本が最後に自力でアジアを突破した時のヘッドコーチは小浜元考氏。1996年に日本代表ヘッドコーチに3度目の就任。1979年、1984〜1989年と間は空いたが長年務めていた経験がある。女子日本代表も中川文一ヘッドコーチは9年間に及ぶ長期政権で1996年アトランタオリンピックに出場し7位入賞。長ければ良いというわけではないが、せめて4年単位での強化は必要であり、この悔しい経験を糧にして鈴木HCの続投を希望する。

続投とともに、日本のヘッドコーチを集結して世界へ挑戦

敗れて行ったチームに言えるのは、ヘッドコーチが孤立していたこと。中国のパンナジオティス・ヤナキスHCは2006年に日本で開催された世界選手権でギリシャを率い、準優勝に導いた。その名将を持ってしても、孤立した状態では準決勝にさえ進めなかった。 中国は死のグループと言われたグループCでイラン、韓国に敗れ、2次ラウンドではカザフスタンと最後までもつれ込む接戦となり、73-67で辛勝。5-8位決定戦もヨルダン戦は79-76、カタール戦も96-85と圧倒的な強さは鳴りを潜め、チームは空回りしている状態が最後まで続いた。それは日本も同じである。 逆に勝ち上がって行ったチームを見れば、選手とヘッドコーチは頻繁に話し、アシスタントコーチだけではなくマネージャーも含めたベンチに座るスタッフが選手たちに声をかけ、発破をかける。さらに、ベンチに入れないその他スタッフや関係者もベンチ裏に用意された席から身を乗り出して、様々なアドバイスや声援を送り続けた。

130814e.jpg日本はヘッドコーチを助けるアシスタントコーチが必要だ。女子は昨年、敗れはしたがロンドンオリンピックを目指しWJBL上位3チームのヘッドコーチを集結させて挑んだ。納谷 幸二アシスタントコーチは元日本代表であり、アイシンの選手として鈴木HCの戦術は熟知しているが、高校のコーチ歴だけでは経験不足は否めない。少しでもヘッドコーチが迷い始めた時に助言できるブレーンが必要だ。 bjリーグを制した元横浜のレジー・ゲーリーHC(千葉)や2年目でJBLファイルまで進んだ北 卓也HC(東芝)、沖縄を優勝させ、2年目の岩手をプレイオフへ導いた桶谷 大HC、オールジャパンでJBLを倒した青山学院大学の長谷川健志HCなど、日本にも優秀なヘッドコーチはいる。そのヘッドコーチ陣を集結させて、世界へ挑むことが求められる。 もちろん実績ある外国人ヘッドコーチを専任で迎え入れるのも一つの手ではあるが、その場合はアジア選手権での実績を一番に考えた方が良いだろう。そして、中国の失速、4強入りしたフィリピン、韓国、チャイニーズ・タイペイが自国ヘッドコーチで勝ち上がったことを考えても、優秀な外国人コーチを招へいしたからと言ってすぐさま変わるわけではない。

現在、鈴木HCは日本代表とアイシンの両方を兼任している。ならばアシスタントコーチも兼任させ、ぞれぞれ特長ある日本のヘッドコーチ陣を集結して世界に立ち向かってもらいたい。鈴木HCが言う「日本が一丸となって取り組めば、チャンスは出てくる」*ことにもつながってくる。鈴木HCの下ではプライドが許さないとか、ケミストリーが合わないという声が上がるとは思うが、そんな言い訳は勝ってからにしてもらいたい。

支え続けたサポーターが世界へアシスト

130814d.jpg長く続く低迷はヘッドコーチや選手、協会の体制だけの問題ではない。むしろそこは大きな問題ではないということを、フィリピンで悟った。 開幕戦から決勝戦まで、毎日のように2万人収容可能なモール・オブ・アジア アリーナを埋め尽くしたフィリピンサポーター。優勝したイランも多くのサポーターが最上階から歌って踊って旗を振って応援を送る。選手たちも頭上高くにいるその集団に向かって、わざわざコートの逆サイドでもその真下まで行って手を振り、勝利した後は弓矢を射抜くポーズで感謝を届ける。 今回、試合前の選手入りは裏からではなく、試合中のコートを横切りながら登場する。試合真っ最中のコートサイドを、次の試合に控えるチームが歩いている姿はなんとも不格好だと感じていた。しかし、フィリピンでは違う。 フィリピンチームが会場に現れると、試合中でもお構いなしに大声援が送られる。フィリピンのヴィンセント・レイエスHCは、手を高々と挙げたガッツポーズで登場し、選手たちもその声援に応え、前列にいるファンと写真を撮ったりサインをしたり、声をかけられたりとファンの後押しを受けながら約半周のコートサイドをゆっくり周ってロッカールームへと向かう。予選ラウンドも、決勝も変わることなくこの儀式は毎日行われた。 熱いサポートに支えられたこの2チームが決勝に進んだのは、偶然ではないだろう。

日本からは地元サイトでも紹介された富田 英治さんが声を潰しながら声援を送り、そして檄を飛ばしてくれた。フィリピン戦は2万人vs1人という孤独な戦いの中、ブーイングでかき消されながらも太鼓を叩き、そして5階席からコートに届く大きなニッポンコールを送り続けてくれた。 今年度、アンダーアーマーが日本代表のモチベーションを高める報奨金制度「JAPAN PRIDE」が設けられたが、アジア選手権においては富田さんに、ぜひあげて欲しいとさえ思ってしまう。不甲斐ない試合が続いたにも関わらず、日の丸を掲げ続けた富田さんこそ、日本の誇りだ。

日本と変わらない戦歴と日本にはない盛り上がり

1970年代までのフィリピンは、オリンピックや世界選手権の常連国だった。同じく当時は世界に出ていた日本のライバルでもあった。しかし日本同様、その後は世界の舞台に出られていない。日本でさえ1998年、そして開催国として2006年に世界選手権に出場したが、フィリピンは一度も無かった。2001年と2005年は国内の協会とリーグの対立によりアジア選手権資格停止。苦しい年月を重ねて来たが今大会で準優勝し、1978年以来となる35年振りの世界戦出場を決めた。 そんな不遇の時代が続いていたにも関わらず、毎日2万人近いサポーターが会場に詰めかけた。会場に入れなかった人たちも、レストランなどのテレビやカーラジオ、携帯電話で観戦し、街中が歓声に沸いていた。

台湾もバスケに熱い国ではあるが、応援に来るファンが着ているバスケジャージーのほとんどがNBA。しかしフィリピンでは「GILAS」とフィリピン代表チームの愛称がプリントされたジャージーやTシャツはもちろんだが、フィリピンプロバスケリーグ「PBA」所属チームの色とりどりなジャージーをたくさん見ることができた。逆にNBAジャージーを着ている人は一握り。 アジア選手権が地元で開催されているからという一過性なものではないこの盛り上がり。アジア選手権で勝てなくても、しっかりプロリーグのシーズン中から支え続けて来たことがようやく実を結び、来年のFIBA ワールドカップ出場をもぎ取ることができたのだ。

タマゴが先か?ニワトリが先か?その答えを求め走り続けろ!

130814b.jpgバスケットボールが国技であるフィリピンにおいて、強いから応援されているのか、応援されているから強いのか?という難問に頭を抱える。 アジア9位となった戦犯捜しよりも、まもなく始まる国内リーグの会場へ出向いてヤジを飛ばした方が、よっぽど強化につながるだろう。甘いリーグ環境を作ってしまったことが、国際大会でのメンタルの弱さを招いている。今後は2500人以上の集客が無いチームから日本代表は選ばないとか、本気で日の丸を背負って戦う意志がある選手だけを集めるためにもトライアウトをさせた方が良いのではないかとさえ感じてしまう。

日本ではトップレベルにおり、バスケでメシが食えているかもしれないが、外に一歩出ればその生活基盤は音を立てて崩れてしまう。だからこそ、選手たちは反骨精神を持って走り続けなければならない。そして我々ファンもまた、本当に日本代表を強くしたければ、シーズン中にたった1回でも近所の会場へ行き、グチでもヤジでも飛ばしながら見られるという環境を作って行かなければ変わらない。 今後、アジア選手権で勝ち抜くためにも、シーズン中の1試合1試合もまた真剣勝負となる環境に変えることが重要だ。幸いアンダーアーマーが報奨金というニンジンをぶら下げてくれている。そしてFIBAの放映権を買ったフジテレビも、今はCS放送だが活躍次第では地上波を勝ち獲ることもできる。それをモチベーションとし、選手やコーチ陣が自ら日本を変えるという思いで、一番長くバスケと向き合うリーグ戦から世界を視野に入れて戦うべきだ。それができれば、2年後はあっという間にアジアとの差なんて埋められる。 現実を直視し、劣等感を抱きながらも、前を向いて走り続けるしかない。日本を強くするために必要な立場などは無い。強くしたい、そう思った人が行動に移せば良いだけだ。 そう、熱いフィリピンのように──

text by IZUMI