“北のレフティ”が挑む、世界への壁

motokawa00Text & Photo by F.Mikami

本川紗奈生は今、充実したときを過ごしている。
昨年、初めて女子日本代表候補に入り、アジア競技大会に出場する女子日本代表のメンバー入りも果たしたが、いわゆる“A代表”ではなかった。A代表は同時期にトルコでおこなわれる世界選手権に出場していたため、本川が入った女子日本代表は“B代表”、ネクストエイジの選手たちで構成された若いチームだったのだ。

しかし、そこでの実績やWリーグでの活躍が認められ、今年度も女子日本代表候補に名を連ねることとなった。今年度は正真正銘のA代表候補である。しかも約2か月半の合宿期間が折り返しに差し掛かったところで、スタメン組のシューティングガードとしてコートに立っている。
「すごく楽しい。いろんなことを学ぶことができるから、(合宿の間に)所属チームに帰る時間がもったいないくらい……ずっと一緒にやっていたい」

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 本川をそう思わせるのは吉田亜沙美や間宮佑圭、髙田真希といった、歴戦の日本代表が誇る“センターライン”の強固さにある。
「JX-ENEOSがそうであるように、やっぱりポイントガードとセンターのラインがしっかりしているチームは強いなって感じます。私自身もすごくプレイがしやすいです。実際に今年から(所属するシャンソン化粧品の)指揮を執る丁海鎰ヘッドコーチもチームにそれを求めているんですけど、吉田さんたちを見ていると、まだまだウチのチームのセンターラインは弱いなって感じますよね。一緒にプレイして、いいところを持ち帰りたいって思います」 

 収穫はしかし、所属チームへの還元だけではない。彼女自身も明確な役割のもとで自分をさらけだすことができそうだ、という期待感がある。
 176センチの上背でポイントガードをできるほどのハンドリング力がある本川。事実、彼女は釧路町立遠矢中学に通っていたころから、その身長でポイントガードをやりたいと言い続けてきた。実際に昨年度のアジア競技大会でも相手を上回る身長があり、得点力、アシスト力、そしてディフェンスでも相手のポイントガード陣を守れる自信があったため、ポイントガードでの起用を望んでいた。結果として札幌山の手の同期である町田瑠偉や、同じシャンソン化粧品のチームメイトである三好南穂がポイントガードに起用され、彼女自身はシューティングガード、もしくはスモールフォワードで起用されても、どこかで「自分がポイントガードだったら、もっと違う形を作れる」という思いを拭い去ることができずにいたのだ。
 しかし吉田と一緒にプレイをしてみると、「これが世界レベルのポイントガードなのか」と実感することができたという。そして、いともあっさりと兜を脱ぎ、シューティングガードとしての起用を受け入れた。
「やはり吉田さんクラスになると、自分の背が小さいことも理解していて、どう守るべきかをしっかりわかっている。オフェンスでも、ここというところに正確なパスが出せる。吉田さんが日本代表のポイントガードなのは当たり前だなって思えたんです」 

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 むろん彼女が担うシューティングガードも、世界を目指すチームのなかではけっして楽に考えられるポジションではない。持ち味であるドライブで攻められると思っても、チームで決められたオフェンスシステムがその障壁になることもあるのだという。
「行けると思っても約束どおりセンターがペイントエリア内に入ってくるから、行くのを止めなければいけない。そうした決められたチームオフェンスのなかで、自分の持ち味であるドライブをどのタイミングで出せばいいのか。ディフェンスでも、自分ではカバーに出られると思って飛び出したら、結果として生まれたスペースがチームディフェンスの穴になることもあるし……まだまだ考えることがたくさんあります」 

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 アジアで勝つことはもちろん、そのさきの世界を目指している女子日本代表で、本川はこれまで経験したことのない、より高い判断と実行力を求められている。でも、だからこそ、それを身につけたとき、新しい扉が開かれることも理解している。
「今までは好き勝手をしてきた……というと誤解されるかもしれないけど、どちらかといえばそんな感覚でプレイしていました。でも世界を目指す日本代表は1つひとつのプレイをしっかり考えないと成立しない。世界はそんなに甘くない」

 身体能力や自分の感覚を大事にしてきた本川が、全体像を考えることでもう一皮むければ、女子日本代表のアジア選手権2連覇、そしてアテネ大会以来のオリンピック出場も、より現実味を帯びてくる――。