Bリーグの顔・田渡修人(三遠ネオフェニックス) 「挫折を乗り越えて手に入れたもの」

Bリーグ中地区2位の三遠ネオフェニックスには、部門別ランキングで現在トップに付ける選手が2人いる。1人は鈴木達也(アシスト部門)、もう1人は田渡修人(3ポイントシュート成功率)、ともにチームの勝利に大きく貢献する存在だ。中でも2015年シーズンにNBLリンク栃木ブレックスからbjリーグ浜松東三河フェニックスに移籍した田渡修人はそれを機にポイントガードからシューティングガードへ軸足を移し、シューターとして着実な成長を見せてきた。「今年はヘッドコーチからどんどん点を取りに行ってくれと言われています。もし10本落としたとしてもいいシュートだったらOKと言ってもらっているので、それを自分の仕事だと思い、これからも積極的にシュートを狙っていきます」と、語ることばに迷いはない。

プロ選手になって味わった挫折感

物心ついたときから周りにバスケットがあった。父は京北高校、中京大の中心選手として活躍し、後に京北高校の監督に就任した田渡優。2つ違いの兄の背中を追うように幼稚園からバスケットを始め、4つ下の弟もそれに続いた。京北中学から京北高校へと進み、監督である父から厳しい指導を受ける。高校卒業後「3人の中で1番おっとりしている」と言われた次男坊は筑波大学へと進み、チームの司令塔として成長、4年次にはキャプテンも任され、大学を代表する李相佰杯メンバーにも選出された。田渡は当時の自分をこんなふうに振り返る。
「あのころは自分のプレーにそれなりに自信を持っていたと思います。自分はもっとできると信じていました」

その自信が揺らぎ始めたのはプロ選手としてリンク栃木ブレックスに入団してからだ。
「正直、試合に出たら自分は(チームに)貢献できるはずだという気持ちはずーっと持っていました。でも、プレータイムをもらうためには練習でもっとアピールしなきゃいけない。しなきゃいけないのにそれがうまくいかない。自分はもっとできると思っているのに、練習のときや、いざ本番になったときに自分のいいところが出せなくて、なんでこんなにうまくいかないんだろうと、だんだん自信がなくなっていく感じでした。やっぱり試合に出ているメンバーの方が自分より上なんだと認めざるを得なくなって、それがすごく悔しかったです」

それは田渡が味わう初めての大きな『挫折感』だった。
「苦しかったですね。自分の力はこんなものなのかと…」

苦しみの中から学べたもの

しかし、決して下を向いていたわけではない。
「周りにすごい人がいっぱいいましたから。自分の力不足を痛感していた1年目にすごく影響を受けたのは宮永(雄太・現富山グラウジーズ)さんです。宮永さんは東芝(現川崎ブレイブサンダース)から移籍してきたんですが、あれほど実績がある人なのになかなかプレータイムをもらえない。でも、腐らないんですね。練習が終わると僕といっしょにワークアウトをやってくれたりして、なんていうか、あの人のバスケットに対する姿勢を見て自分のバスケットに対する考え方が変わりました」

プロになって1年目の自分が腐っている場合じゃないと教えてくれた先輩は他にもいる。
「同じガードのポジションには田臥(勇太)さんがいて、見ているとやっぱりすごいなあと思うわけです。自分と比べたら絶対的にあの人の方がコントロール力があるし、ゲームの支配力もある。敵わないなあと思いました。でも、そのとき『だったら自分は他のところで勝負できるようにならなきゃダメだ』と気づいたんです。だから、シュートの練習はものすごくやりました」

川村卓也(現横浜ビー・コルセアーズ)と1年間ともに練習した経験も大きいという。
「川村さんにはいい意味ですごくシゴかれたんです。プロの厳しさを教えてもらいました。その川村さんと同じBリーグのコートで戦うことになって、今ほんとにうれしいです。川村さんは打ったら全部入っちゃうんじゃないかと思うほどのシューターじゃないですか。戦うときはやっぱりバチバチやってくるんで、こっちも負けてられないと思ってバチバチ返して、それがすごく楽しいし、おもしろい。そう思うと、あらためて栃木にいた3年間があってよかったなあと感じるんです。苦しいことはいっぱいあったけど、あの3年間がなかったら今の自分はないと思います。それは絶対、確かです」

右が今週末(11月26日-27日)に対戦する川村卓也(横浜ビー・コルセアーズ)

バスケットは苦しい、けれど楽しい

田渡家の3兄弟は今も揃ってバスケットに明け暮れる日々を送っている。兄の敏信は29歳のルーキーとして今季B3リーグの埼玉ブロンコスに入団。弟の凌はアメリカのドミニカン大学(NCAAディビジョンII)で活躍中。
「やっぱり下の僕たちがバスケットを続けてこられたのは頑張るお兄ちゃんの背中があったからだと思います。弟もアメリカで頑張っていて、よく連絡も取り合ってるんですが、ああだね、こうだねとバスケットの話をして互いにアドバイスし合ういい関係です。性格はみんな違いますね。僕が1番末っ子みたいに見られるかもしれません。だいたい弟は生意気で僕のことを舐めくさっていますね。もうちょっと攻めろよとか、偉そうに言ってくるんですよ(笑)」

かつて鬼のように厳しかった父は、そんな息子たちのことを今はただ静かに見守っている。
「僕が大学に入ってからは何も言わなくなりました。『試合に出たら思いっきりやれよ』とか『今日は良かったね』とか言うぐらいで。でも、自分のことは今でも『俺が若いときはすげー能力が高い選手だった』と言うんですよ。そう言われても見てない僕たちには全然わかりませんけど(笑)」

だが、田渡の心のどこかにはその父にさらにステップアップした自分を見てもらいたいという思いがあるのではないか。今後の課題について尋ねると淀みない口調で答えが返ってきた。
「まず今は崩してもらってからの合わせのシュートが多いので、これからは自分がドリブルでピック&ロールしたりしてプレーの幅を広げていきたいですね。それと僕はわりとアシストが得意なんで、自分が起点となったとき、もっと割って行ってディフェンスを引き付けてパスを出すとか、周りを活かすプレーも増やしたい。ポイントガードは(鈴木)達也がいるんでそこは任せて、達也がプレッシャーをかけられたときは僕がコントロールする、みたいな。そこはうちのメリットでもあるので引き続き頑張っていきたいです」

シューターとして成長することで取り戻した自信。今、毎試合が楽しいと言う。
「ようやくコーチの信頼を勝ち取って試合に出られるようになったことは嬉しいし、今、プレーすることがとても楽しいです。実際にはバスケットの大半は苦しいんですよ。でも、みんなと力を合わせてタフな試合を勝ち取ったとき、なんとも言えない大きな喜びがある。だから、また頑張れるんですね。また頑張ろうと思えるんです」

11月23日の対富山グラウジーズ戦は84-68で快勝。この試合で14得点をマークした田渡の3ポイントシュートは4/4のパーフェクトだった。中地区トップを行く川崎ブレイブサンダースとの差は星3つ。その背中を追いながら今週末(11月26日、27日)は横浜ビー・コルセアーズが待つ敵地へ乗り込む。

三遠ネオフェニックス

文・松原 貴実 写真・泉 誠一