【日本代表】長谷川ジャパンのビッグママ『小鉄』こと、古海 五月AC

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男子日本代表チームに初の女性アシスタントコーチ(AC)が誕生した。長谷川(健志)ジャパンを支える古海 五月さんだ。ご自身も第一線で活躍し、共同石油(現・JX-ENEOSサンフラワーズ)時代はキャプテンとしてチームを日本一に導くとともに、レギュラーシーズンMVPを二度獲得。6年間にわたり日本代表として活躍し、そのうち4年間、代表キャプテンを務めた。
今回のスタッフ入りは2010年、中川文一ヘッドコーチ(HC)の下で女子チームのACを務めて以来のこと。果して今回はどんな思いがあるのだろうか。

──男子日本代表のAC就任には、特別な思いがあるのでしょうか?

古海AC:ここ4年間は味の素ナショナルトレーニングセンターで、あらゆるカテゴリーの代表チームをお世話して来ました。その中でも、男子日本代表が一番気になる。頑張ってもらいたいし、なんかこう元気がない。女子がある程度の成績を残しているだけに、「男子はどうしたんだ!?」という思いがあるんです。
良いものは持っているのに、それを出し切れていない。そういう集団(チーム)に見えて、私自身がイライラするというか、もどかしさを感じていました。

──頑張っているけれど結果が出ない、残念な気持ちだった?

古海AC:残念というより、「もうちょっとやれるだろう!?」「もう少しやらなきゃいかんだろう!」という気持ち。自分たちだけが頑張っているわけではありません。どの国の代表も頑張っているわけですから、自分たちよりも体が大きくて、能力の高い選手たちが努力しているなら、それ以上の努力をしなければ結果が得られないのは当然でしょう。もっと頑張らなきゃいけない。それは選手だけでなく、スタッフも協会も同じなんです。

──ここに集まるのは、世代ごとのいわゆる「バスケエリート」ですよね?

古海AC:確かにそうですが、何が“エリート”なのかを考えてもらいたい。技術や体力だけでなく、メンタルも充実してこそなんです。その辺りはスタッフがガツンと言わなければなりません。国内にいてそこそこできてもダメ。海外へ出て行って、どんな環境であっても求められる結果を残さなければ評価はされない。

選手を「鍛える」長谷川HCのサポート役

japan140808b──ACとして参加する以上、責任があると自覚されているわけですね?

古海AC:長谷川HCからは「思ったことは口にしていいよ」と言われています。他のスタッフとダブるようなことは言いませんが、(心底腹が立ったことは)積極的に伝えています。

──ご自身がトップアスリートであり、女子代表を経験したり、MVPを獲得したりという実績の裏付けは大きいですね?

古海AC:それがあるから、口に出して言える部分があるかも知れません。「これを言うと逆効果だな」とか、「今、これを言って盛り上げないと」という判断は、経験値があるので大丈夫。チームにも、選手にもプラスになるアドバイスを肝に銘じています。

──コート上のことに限らず、オフコートでも気になることがあれば口を出す?

古海AC:選手たちにはいつも言っているんですが、「40歳、50歳になってバスケでメシが喰えているか」というと必ずしもそうではないかも知れない。バスケでさまざまなことを勉強し、ここ(日本代表チーム)で頑張ったことや学んだことを糧に、一社会人としても認められる存在になって欲しいんです。現役を終えたあとが本当の勝負で、社会人としての人生が始まります。
時代が変わり、今は「恵まれ過ぎ」ていることに「慣れ過ぎ」だと感じています。せっかく日本代表に選ばれたわけですから、海外遠征や国際試合を経験したら「これじゃダメだ、もっと頑張ろう」と感じたことを自分の糧にして欲しいし、所属チームに帰ったら、「ここが足りなかった、努力するしかない」ということを周り選手に伝えて欲しい。改めて代表に招集されれば、お互いに評価(批判も)し合いながら、切磋琢磨できる集団になって欲しいですね。

──それは、気持ちの面で殻を破らないと実現できないと感じているのでしょうか?

古海AC:突き抜けるような選手がいない。上は見ているけど、その壁(天井or限界!?)を破って行こうという選手がいないんですね。その手前で、ああでもないこうでもないとつぶやいている感じ……長谷川HCがミーティングで言ったんですが「頑張った、頑張っていないというのは自分で決めるもんじゃない。周りの人がどう感じ、どう判断するかだから」。まさにそうだと思います。トップアスリートというのは、周囲の人が怖くなるほどの気迫がなければならないですし、その境地になれば今度は美しくさえ見えて来ます。その点では、「やり切れたかな」という思いはありますね。中村さん(和雄/共同石油時代の監督)には感謝しています。ああいう個性的な指導者はもう現れないかも知れません(笑)
これはバスケに限らず、日本の教育や親のしつけも関係しているかも知れません。ただ、ファッションなど流行にはサイクルがありますよね。もう一度、選手の育て方やチームづくりなど、以前の良いところは見直してもいいんじゃないかと思います。もちろん体罰や暴力の問題など、あってはならないことは排除し、その上でメンタルを鍛える工夫はあるはずです。

──そこは長谷川ジャパンに期待している?

古海AC:私は自分がトップアスリートだと思ったことがありません。常に「勝つために」「日本一になるために」当たり前のことをやってきただけ。他の選手に負けないぐらいシュートを打ちましたし、誰よりも練習に打ち込んだと思っています。普通の選手だから足りないところがある。ならば人一倍練習をし、アドバイスをもらったら繰り返しやってみる、その繰り返しでした。そういう鍛えられ方に慣れていたというか……今の男子日本代表には長谷川HCが必要ですし、適任ではないでしょうか。バスケを教えるというより、選手を鍛えることができる。だから、少しでもサポートできればと思っています。選手をバックアップするのは当然のこと。元気がないなら、(私が一番元気なはずだから)それをチームに注入しますよ(笑)

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バスケとともに成長する選手たちを見守りたい

──以前、日本代表HC対談(vol.3)をお願いした際、長谷川HCは「ここには母ちゃんがいるから」とお話しされていましたが?

古海AC:そうですね、私の存在も認知されているでしょう(笑)選手やスタッフから「小鉄がいるから安心だ」って思ってもらえればいい。最近はプライベートな相談(恋愛相談!?)も……そうなると距離が縮まって、本気で叱れます。まさにお母さん、ですね。

──そのお母さんがバスケットを始めたきっかけを教えてください?

古海AC:6歳違いの姉の影響です。小学生のときに姉のプレイを見ました。中学に入学したら同じ監督さんが居て、「あっ、お姉ちゃんの監督さんだ」って。部活はバスケとバレーと、ソフトテニスと陸上しかなくて、やっぱりバスケだと決めました。

──それからはバスケにのめり込んでいったなぁ、という感覚はありましたか?

古海AC:ありました。成績は良かったほうなのに、バスケが楽しくてどんどん下がってしまって……それでも落ち込みませんでしたね。例えば、休日の練習があって女子は午前中、午後は男子だったとしたら、そのまま一緒にやらせてもらいました。

──男子と一緒に? 親御さんは注意しなかった?

古海AC:そう男子と。もう親はノータッチです。四女ですから、ほったらかしで、「好きなようにどうぞ」って(笑)中学のチーム成績は県で3位。特に強い高校へ行こうとは思わず、地元の高校に入学しました。弱小チームだったんですが、それがいきなり長崎県でベスト4入り。ワンマンチームだったので、私が国体選手に選ばれたんです。すると周りの人からの勧めもあって、強豪校(鶴鳴女子、現在の長崎女子)へ転校することになりました。国体チームの監督が率いているという理由です。

──早くもスカウトされたわけですね。「将来は実業団に」と考えたんでしょうか?

古海AC:それはまったく知らない世界(笑)ただ、鶴鳴で初めてバスケを教わったら、バスケがイヤになっちゃった。ところが現役を終わるとまたバスケが好きになり、そのタイミングで監督(山崎純男)さんから、「共同石油というチームがあるけど、どうだ?」って聞かれました。「そこの監督と懇意にしているから行ってみないか」と言われ……“まさか、ここより厳しくないだろう”と思って行ったら、数十倍厳しかった(笑)

──高校でも共石でも大変な思いをしたわけですが、それでもバスケを続けられたのは?

古海AC:どうしてでしょう!? 行ったら行ったで、とても良い経験ができました。目の前のことに一生懸命取り組み、頑張ってみようと考えられたんでしょう。いろいろありましたが、24歳のときに「ここ(共同石油)で頑張れば、人生勉強ができる」と思うようになりました。そうなると、怒られても自分のためになると受け止められる。やっぱりバスケとともに成長できたんです。良い環境でバスケができるんだから、この経験を次に生かしたい、そう思いました。バスケを通して学ぶことがあるという考え方です。
バスケが上手くなるだけでなく、プラスαを身に付ける……それは今、男子日本代表選手への思いに通じます。この機会をしっかり生かして欲しいと願っています。きっと、将来の自分に役立ちますから。バスケで培ったものがベースになる。プレイの上手い下手だけではありません。それ以上に、ヒューマンスキルを磨くことが重要で、アスリートとして成長するというのは、ひとりの人間として成長するということとイコールでなければならないと思っています。特に若い選手たちには、そのことをしっかり意識してもらえるように接していくつもりです。

──好き嫌いに関わらず、常にバスケがありました。今もまだ、バスケにどっぷりですね?

古海AC:私のキャリア云々より、このキャラクターを生かして欲しいんです。もう少し慣れたら、長谷川HCが求めに応じて、どんどんアドバイスしていきます。何か気になることがあったら遠慮なく注意する、たるんでいるなぁと感じたら叱る、その役回りは私だと自覚しています。
そして、今回の男子日本代表は少し時間を掛けてでもしっかり育てる必要があります。長谷川ジャパンがどのような成長を見せるか楽しみですし、私もスタッフ一員として責任を果したいと思います。ファンの皆さんの声援も欠かせませんから、ぜひ応援していただきたいですね。よろしくお願いします!

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ちなみに『小鉄』は『じゃりン子チエ』(双葉社)から由来している。『小鉄』は猫だから、とにかく手が出る(猫パンチ)。ボールや相手に対して素早く反応することから命名されたらしい。しかしホントは、“親分肌で頼りがいがある”“ここ一番で大事な役割を引き受けてくれる”そんな性格を、チームメイトの誰かが感じ取っていたのだろう。もしかしたら、『小鉄』のキャラを知らない選手がいるかも知れないが、ぜひ一度、コミックを読むことをお勧めする。すぐに納得するだろう。
この日も取材が終わるのを選手が待ち構えていた。すぐにその選手に視線を送り、声を掛ける長谷川ジャパンの「母」、その名も『小鉄』、いや古海さん。元気な声をコートに響かせながら、息子たちを温かく見守り続けていくはずだ。

古海 五月(ふるみ さつき。旧姓・原田):1963年5月26日生まれ、長崎県出身。共同石油(現・JX-ENEOSサンフラワーズ)でリーグ優勝3回(MVP2回)、オールジャパン優勝3回。女子日本代表のキャプテンも務めた。

第36回男子ウィリアム・ジョーンズカップ

8月9日(土)19:30 日本 vs チャイニーズ・タイペイA
8月10日(日)17:00 日本 vs イラン
8月11日(月)15:00 日本 vs ヨルダン
8月12日(火)17:00 日本 vs 韓国
8月13日(水)13:00 日本 vs チャイニーズ・タイペイB
8月14日(木)13:00 日本 vs エジプト
8月15日(金)17:00 日本 vs アメリカ選抜
8月16日(土)準決勝・5-8位順位決定戦
8月17日(日)決勝・3位決定戦
開催国:台湾

JBA
第36回男子ウィリアム・ジョーンズカップ

文・羽上田 昌彦(ハジョウダ マサヒコ)
スポーツ好きの編集屋。バスケ専門誌、JOC機関紙などの編 集に携 わった他、さまざまなジャンルの書籍・雑誌の編集を担当。この頃は「バスケを一歩前へ……」と、うわ言のようにつぶやきながら現場で取材を重ねている。 “みんなでバスケを応援しよう!”を合言葉に、バスケの楽しさ、面白さを伝えようと奮闘中。