矛と盾が交わるNBLファイナル

ある中学バスケットの指導者が言っていた。バスケットは“矛盾”のスポーツである、と。その理屈はこうだ。片やオフェンスは「絶対にシュートを決める」と考え、片やディフェンスは「絶対にシュートを決めさせない」と考える。じゃあ、その「絶対にシュートを決める」オフェンスと、「絶対に決めさせない」ディフェンスが対峙したらどうなるのか――

NBLプレイオフのファイナルが佳境を迎えている。イースタンカンファレンスを制した東芝ブレイブサンダース神奈川が、ウェスタンカンファレンスの和歌山トライアンズに対して2連勝を果たし、初代チャンピオンに王手をかけているのだ。そのなかに“矛盾”を思い起こさせるマッチアップがある。

和歌山#9川村卓也選手(左)東芝神奈川#9栗原貴宏選手(右)

和歌山#9川村卓也選手(左)東芝神奈川#9栗原貴宏選手(右)

矛――川村卓也。和歌山のみならず、日本が誇るスコアラー。絶対的な得点感覚を持ち、どんな体勢からでもシュートを沈めてくる。

盾――栗原貴宏。彼もまた東芝のみならず、日本を代表するディフェンスのスペシャリスト。そのディフェンス力を買われて、昨年のアジア選手権では相手国のエースキラーに抜擢されたほどだ。

そんな2人がマッチアップをするのだから、思わずとも注目をしたくなる。

しかし実際はといえば、チームの勝敗とは真逆に川村がイニシアチブを握っている。栗原が常に1人でマッチアップしているわけではないにせよ、川村の得点は初戦が20点、第2戦が33点。矛の勝利である。

「メディアのことを考えなければ、対栗原については別に何とも思っていませんよ」

川村は日本でも有数のディフェンダーを、いい意味で屁とも思っていない。それだけ自分のオフェンス力に自信があるということだろう。

「ただ彼が東芝のディフェンスのエースとして僕にマッチアップをしてきて、ファウル覚悟のハードなディフェンスをしてくる。その意味ではタフな選手だと思っていますし、(第2戦の終盤)僕からスティールをしたのも、僕のミスではあったけれども、彼がいいディフェンダーだからこそ、あの場面でスティールができたのだと思っています」

メディアに対するリップサービスだとしても、川村の中に栗原のディフェンスを認める部分もあるわけだ。そのうえで第3戦に向けて、こう繋ぐ。

「それでも個人的にはやっつけられる力を僕は持っているので、彼のようないいディフェンダーと対戦することを楽しみにしながら、第3戦も戦いたいですね」

栗原選手を抜く川村選手

栗原選手を抜く川村選手

力のあるディフェンダーを破ってこそ、川村のスコアラーとしての輝きはさらに増してくる。

他方、栗原はファイナルの相手が和歌山と決まった瞬間から、自分の仕事は川村を抑えることだと、ディフェンスモードのギアを一段階引き上げた。

「でも川村さんを完ぺきに抑えようとするのはまず無理なので、とにかく苦しいシュートを打たせたり、40分間フル出場をする選手なので、少しでも疲れさせて後半に思うようなプレイができないようにさせることを考えています」

しかし2戦を通した結果は上記のとおり。チームは勝ったものの、栗原個人としては反省の色のほうが濃い。それでも終盤、川村と対峙した1対1の場面でスティールを決めたことは、第3戦に向けて大きな自信になったに違いない。

「お互いが正対して、止まった状態での1対1では3ポイントを打たれた印象もないし、ドライブも絶対に止められないなという感覚はなかったので、反省のほうが多いですけど、次につながる手ごたえもありましたね」

バスケットは1対1のスポーツではない。そのことは彼らも十分に理解している。理解しているからこそ、川村は第2戦の終盤、自らの1対1から木下博之の3ポイントシュートを引き出すアシストを決めているし、栗原も自らの仕事を川村を守ることだと言いつつ、「1人だけで守ろうとせずに、チームで話し合って守りたい」と言っている。

それでもゲームのなかにある1つの局面として、日本が誇る稀代のスコアラーと、日本屈指のディフェンダーの1対1は見逃せない。矛が盾に穴を開けるのか。盾が矛の貫通を阻止するのか――。

NBLプレイオフ・ファイナル第3戦は24日(土)15時に、ティップオフ!

栗原選手のディフェンス

栗原選手のディフェンス

NBL

三上 太