大きな期待を背負った小さなルーキー:富樫 勇樹選手(秋田ノーザンハピネッツ)

130227_01.jpgアーリー・エントリー制度(日本及び海外の新卒選手が2月より公式戦に出場できる制度)で今シーズン途中より秋田ノーザンハピネッツに入団を果たした富樫 勇樹。秋田オフィシャルサイトに掲載された入団記者会見時の記事には「大型新人選手」と紹介された。富樫の身長は167cm。東京サンレーヴスの青木康平と同じサイズであり、見た目の”大型”さはない。秋田での期待の表れっぷりを中村 和雄ヘッドコーチはこう説明した。
「信じられないほど、スポンサーを含め秋田の皆さんに興味を持っていただいており、コート外でも忙しい日々を送っている。それもスター選手だからこそ乗り越えなければならないし、やっぱり他の選手とは違う」
初出場を果たした2月2日の富山戦からスターターで起用され、40分間フル出場。15点を上げ、持ち前のパスで11本のアシストを決め、スティールが3つ。上出来のスタッツを残し、チームも88-78で勝利し、デビュー戦を飾った。

得点を求められ戸惑う富樫

2008年、富樫の地元である新潟で開催された全国中学校バスケットボール大会。新発田市立本丸中学校では、実父である富樫英樹監督の下でプレイし、親子鷹で臨んだ全国の舞台で初優勝。京北中学校との決勝戦で富樫は36点を挙げる活躍。中学卒業後に渡米し、トヨタアルバルクの松井啓十郎や伊藤大司らと同じ、モントロス・クリスチャン高校で将来のNBA選手になるであろう猛者たちとの3年間を過ごす。そして昨年、NBA CARES「バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ アジア2012」で久しぶりに日本でプレイし、その成長した姿を披露した。英語を操ってコミュニケーションを取り、アジア各国から集まった選手たちの中で常に中心にいた。そしてラストゲームでは素早いドライブ、そしてスペースが空けば3Pを沈め、アジアの同世代のライバルたちを翻弄しMVPを獲得。

そんな富樫にとって、得点することも容易なことと思っていた。しかし、「高校3年間でほとんどシュートを打つことが無かったですし、スクリーンを使ってシュートを打つことなんて無かったです」と話しており、好スタートを切ったと思われた新天地での現状に戸惑いを見せた。
中村ヘッドコーチは、「シュートを入れること。中学校の頃までは入っていたのに、高校でフォームを変えられて入らなくなった。アメリカのコーチだからと言って良いとは限らない。富樫のシュートが入るようになれば、もっと良い状態でバスケットができるようになる」と、バスケットで勝つためには当たり前のことであり、けっして高くはない要求を課している。

コンディションUPが第一だが、シーズン途中参戦の難しさでもある

130227_02.jpg入団記者会見は昨年末に行われたが、チームに合流したのは1月中旬。最初はスターティングメンバーの相手となるBチームで調整を行っていた。2月2日のデビュー戦で先発起用されたが、それまでBチームだったこともあり、「マーシャル(・ブラウン)や(アンソニー・)ケントとプレイしたのは試合に入ってからです」
モントロス・クリスチャン高校でのラストシーズンを終えた後、なかなか次のステップが決まらなかったことで、10ヶ月ほど実戦から遠ざかっていた。自ら志願したプロの道だが、その準備は万全とは言えない状況のままスタートした。
外国人とのコンタクトにも慣れているはずだが、やはりプロは勝手が違うようで、試合中もお腹をさする仕草を見せていた。「コンタクトがすごいのでエルボーがよく入ります。でも、それは仕方ないこと。アメリカの高校生と比べても、ちょっと当たりの感じは違いますね。プロの選手たちは強いと言うよりも重く感じます。スクリーンの時でも重いです」と、プロの違いを身をもって実感している。
「まずは自分の脚力を100%戻すことが先決です。オフェンスはまだ良いですが、ディフェンス面で足がついていかないこともまだまだあります。スクリーンの対応など5on5の形式をやって来ないまま試合に入ってしまっていますので、その辺の調子や感覚が戻ってくればディフェンスでも活躍できると思っています」

コンディションがまだ不十分なために、メンタル面など他にも影響を及ぼしているのかもしれない。この取材を行った2月23日(土)の千葉ジェッツ戦は、ヘッドコーチに求められている得点がデビュー以来初となる0点に終わった。さらに19点差を付けてリードしていた秋田だったが、3Q終盤のオフェンス時、高い位置でパスミスが生じ、相手にリズムを持って行かれてしまう場面もあった。
「あのミスは富樫がどう処理するかを考えなければいけない。富樫の役割だ。今日は相当屈辱的であり、ざまぁみろと言う感じです」と豪快に笑う中村ヘッドコーチ。
大型新人選手と期待されても、やはり高校を卒業したばかりのルーキー。「アメリカではアシストをメインとしてプレイをしていて、秋田に入ってからも正直言ってドライブしながらも空いてる選手を見ながら、アシストを第一に考えてプレイしていました。まだ難しい部分もありますが、ヘッドコーチに求められる得点を獲ることに対して、もっと確率を上げていきたいです」と悩みながらも、ヘッドコーチに求められるプレイを全うしようともがいている。

温かく大事に育てたい

130227_03.jpg富樫が悩んでることは中村ヘッドコーチは百も承知。
「最初はAB型だし、どうでも良い考え方の持ち主だと思っていたが、やっぱりまだまだ19歳。高校時代はアメリカで全くシュートに行かないプレイをしていたのに、中学校の時以来シュートを狙えと言われているわけだから、シュートに対して今、相当悩んでいる。それと、これまであまり怒られた経験が無いので、あの子のためにも今はあえてガツンときつく言ってる。それをはね除けてもらって、成長して欲しいと期待している」
当日会場で配られたマッチデープログラムのアウェイ秋田を紹介する欄には、「ストップ・ザ・ニュースター」という見出しで富樫のことを警戒していた。その期待値はすでに秋田県内だけの話では無い。
その期待と重圧を踏まえながら、「でも温かく、あったかく、大事に育てて行きたい」と、中村ヘッドコーチは柔和な笑顔で答えていた。

  • 3月2日(土)18:00 秋田vs島根@能代市総合体育館
  • 3月3日(日)14:00 秋田vs島根@能代市総合体育館
  • 3月9日(土)18:00 埼玉vs秋田@所沢市民体育館
  • 3月10日(日)14:00 埼玉vs秋田@所沢市民体育館

text by IZUMI