ノリノリトーキョー(東京サンレーヴス#37井手 勇次選手)

開幕から得点力で存在感を示す井手 勇次選手

開幕から得点力で存在感を示す井手 勇次選手

ゴールが決まれば笠置シヅ子の「東京ブギウギ」を高らかに歌い、ワッショイワッショイとお祭り騒ぎになる。
3点獲ろうが、4点差にしようが、ロスタイムだろうが、攻撃を緩めないのが東京スタイルの魅力だ。
東京といっても、こちらはサッカーJリーグ、FC東京のホームゲームでの話。

bjリーグにおいて、東京に拠点を置くのはチーム創設2年目を迎えた東京サンレーヴス。10月19日-20日、立川市泉体育館にてホーム開幕戦が行われた。両日とも集客は1500人程度。しかし、片側しかスタンド席が無い泉体育館なので上々の集客率と言える。対戦相手は開幕から連勝街道をひた走る秋田ノーザンハピネッツ。秋田のチーム新記録となる開幕6連勝をアシストする形で、2連敗を喫した東京はホームゲーム黒星スタート。

昨シーズンの総出場時間は55分。多くの個人記録を塗り替えた開幕戦

「我々は弱いチームであり、どこも楽には勝たせてくれない」
そう力強くコメントしたのは、東京の青木 幹典HC。あまりに歯切れの良い口調に、弱くたって良いじゃないか…という錯覚さえ覚えてしまう。発足1年目の昨シーズンはプレイオフを逃し、自分たちの弱さを自覚しながらも、下克上を目指すのが今年の東京だ。
昨シーズンから残るメンバーは12人中5人。泉体育館へ向かうモノレールには、一新されたメンバーを並べた中吊り広告で開幕戦を告知。しかし、見知らぬ顔ばかりでパッとしない……。失礼ながら、これが今ーズンの東京に対する筆者のファーストインプレッションだった。

しかし、フタを開けて見ればいきなり琉球ゴールデンキングスに延長の末、競り勝つ。青木HCの言葉を借りれば「アップセット」。同じプロチームとはいえ、優勝経験ある沖縄に勝てたことはやはり金星なのだ。
その試合でチームハイとなる34点を挙げる活躍をしたのは、外国人選手でも、昨シーズンからいる井上 聡人でもない。
井手 勇次、予期せぬ伏兵が話題をさらう。

井手のルーツを紐解いていくと、なるほど──
チームメイトの金井 賢治とともに、早稲田大学時代からポイントゲッターとして活躍。さらに遡れば、ウィンターカップ準優勝に輝いた北陸高校の先発メンバー。そう!あの井手 勇次と言えば、学生バスケを見ている方にとっては顔と名前が一致し、ピンと来たことだろう。
大学卒業後、JBL2のTGI・Dライズでプロ選手としてスタートし、昨シーズンはドラフト1巡目で島根スサノオマジックに入団。しかし、2012-2013シーズンに井手が残した数字は、52試合中20試合に出場したがプレイタイムは合計55分。1試合平均にすると3分にも満たない。その中で決めた得点は12点。打ったシュートはフリースローを合わせてたった12本。
その昨シーズンの記録の多くを、開幕戦のたった1試合で大きく更新させたのである。
出場時間31分・34得点(3P:11/21本、2P:6/12本、FT:4/6本)

ヒーローにはなりきれなかったがインパクトは残したホームゲーム

突如現れたポイントゲッターに対し、修正して臨んだ翌日の2戦目。沖縄は執拗に井手をマークをし、シュートに行くチャンスを6回しか与えず、8点に抑えリベンジを果たす。
スカウティングされて臨む次節の秋田もまた、同じくマークは厳しい中ではあったが、19日は16点、20日は23点へと得点を伸ばし、敗れはしたが井手は自分の仕事を全うした。接戦となった2戦目。秋田に3Pで逆転を許した後の残り11秒。スローインからボールを受けた井手は、タフショットながら70-70と同点に追いつく3Pをねじ込んだ。
「入れる気持ちはもちろんあった。セットプレイでチームが僕に任せてくれてボールを預けてくれた分、気持ち良く打てたので、そこは僕自身だけの力ではないです。ただ負けちゃったので、ヒーローになりきれなかったですけどね」

昨シーズンまでプレイタイムを与えられなかった井手だが、東京に来ておもしろいようにゴールへ向かう姿は楽しそうであり、インパクトを残した。
「他のチームを見ても外国人が一人でやってしまうことが多いですが、東京の外国人はマジメですし、ノリも日本人と合っています。若いノリノリのチームなので、すごく良いコミュニケーションが取れているんだと思います。やっぱりバスケはチームスポーツであり、全員でやることが大事。そこが東京の強みでもあるし、お互いに信頼し合えています。先輩たちともフランクに話せるし、外国人も自分を犠牲にしながら良いスクリーンをかけてくれますので、すごく気持ち良くプレイさせてもらっています。その点は感謝しています」

井手の得点力が開花したことにはもう一つの要因がある。それは、非公開で行われた昨シーズンのチャンピオンである横浜とのプレシーズンゲームの時だった。
「その頃の井手はまだシュートに行くのに対し、躊躇していたところがすごくありました。彼にはもっと積極的に打って良い、と伝えたところ、得点を獲る自信はあります、とハッキリ答えてくれました」
青木HCとの対話が井手のリミッターをカットするきっかけとなり、今シーズンの活躍につながっている。

ガンガン強気でメンタル勝負!

tokyo131024bノリノリの井手だが、弱いと公言する東京にとって、相手にアジャストされれば、その活躍があっという間に形を潜める可能性も考えられる。
しかし、井手はさらにノリノリでその対処法を発表した。
「ガンガン強気でメンタル勝負!」

その標語のような対処法をさらにかみ砕いて説明してもらうと…。
「相手にタフにつかれても決められるようにしたい。沖縄との開幕戦でシュートが入ったことで、それ以降は執拗にマークされています。特に昨日(10月19日の秋田戦)はファウルを取ってもらえなかったところもあり、フラストレーションも溜まってしまいました。逆に今日は、強引にアピールしながらもファウルをもらうように仕掛けていきました。そうすれば相手も下がるのでスペースができます。今日は審判もファウルを取ってくれた分、ディフェンスも甘くなり、その隙にシュートを決められました。今後もマークが厳しくなろうがやることは変わらないし、引くつもりもない」

高校、大学では、チームを引っ張って来た井手。しかし、その後の2年間は自分を表現できない状況に追いやられていた。
新天地となる東京にやって来て、その役割は再び中心に戻って来た。人は、人のためになれば、さらなる力を発揮する。スタッツだけを見れば一人で得点を挙げているように映るかもしれないが、井手はしっかり周りを見ており、そして周りもまた井手を見ている。それが東京のチームワーク。
オフェンスだけではなく、ディフェンスやルーズボールもアグレッシブに行く、まさにコートの中ではノリノリな東京。
「ミスしても良いよ、と声をかけ合いながらできるのが東京の良いところです。悪い流れになっても、誰もミスを責めずにみんなでディフェンスからがんばってやり直せば良いだけのこと。そういうチーム作りをしていますし、その気持ちが無ければ下克上もできない。チームワーク良いバスケを見せたいですね」

ノリノリで選手たちが楽しみながらも、堅実的な成長プラン

心底バスケを楽しみながら下克上を目指す。
若さと勢いだけと思われるかもしれないが、井手のプレイオフまでのプランを聞けば、それは現実味があり、堅実的だ。
「最初からトップにいる必要は無いし、プレイオフに入ってから調子が上がれば良いとも思っています。レギュラーシーズンは、全カードを1勝1敗で行けば、自ずとプレイオフに行けるはず。だからこそ今日の試合は勝ちたかったんですけどね。あそこで勝ちきれるのが秋田の強さであり、経験の差。これを繰り返さないように僕らもしっかり経験を積んでいきたいです。あまり先のことは考えず、しっかり目の前の試合に集中していくことが大事」
勝率5割でのプレイオフ進出を第一の目標としながら、一歩一歩階段を上がるような成長段階を見据えていることに少し意外性を感じる。同時に、強くなりそうな雰囲気も漂わせていた。

技術よりも気持ちが大事。技術は練習さえすればいくらでも向上できる。
気持ちで引くことなく、ノリノリでバスケを楽しんでいる。選手たち自ら熱を発しているからこそ、自ずと周りも熱くなっていった。
パッとしない第一印象だったが、FC東京と同じような攻撃的な試合を見せられ、興味が沸いた。
やはり現場で、会場で目の当たりにしなければ、バスケの楽しさは伝わって来ない。
東京は今週末(10月26日-27日@大田区総合体育館)もノリノリなホームゲームが待っている。

bjリーグ
東京サンレーヴス
井手 勇次選手オフィシャルブログ

文・泉 誠一