三上太[著]高校バスケは頭脳が9割(東邦出版/1,500円税込)12月20日発売!

弊誌でも活躍していただいているライターの三上太氏の著書「高校バスケは頭脳が9割」(東邦出版/1,500円税込)が12月20日よりアマゾンや全国書店にて発売されます。

高校バスケで活躍されている5人の監督にインタビューを行い、強豪チームが築かれる過程を記す強化書。
これを読んだら高校バスケットをより深く楽しむことができます。

ここでは5人の名将の中から一人、佐藤久夫監督(明成高校)の一文をほんの少しだけご紹介します。

高校バスケットの“深海”をより知りたい方は、ぜひ「高校バスケは頭脳が9割」をお手にとってお楽しみください!
弊誌フリーペーパー(1月号)ではプレゼントもご用意しています。

「ふーん、頭脳ね……おもしろそうじゃないか」佐藤久夫監督(明成高校)

東北新人大会の2日目、福島駅からバスで約30分のところにある県営あづま総合体育館へと向かう。この日おこなわれていたのは男女の決勝トーナメントである。館内を歩いていた佐藤監督をつかまえ、『高校サッカーは頭脳が9割』を見せながら、このテーマでバスケットにおける佐藤監督の考えを聞きたいと伝えた。するとタイトルを気に入ってくれたのか、「ふーん、頭脳ね……おもしろそうじゃないか」と返ってきた。

勝敗に関わることや、バスケットの技術や戦術については多くを語ろうとしない。むろん、それらの質問に答えるだけの知識や戦術を持ち合わせているのだが、中途半端なことは言いたくないというのが実際のスタンスなのかもしれない。だからこそ、これまではもうひとつ踏み込んでいけなかった。
しかし、「考える」ことに関しては一家言あるようだ。
「ただ、俺のバスケットは頭脳のバスケットじゃない。知的なバスケットだ」
佐藤監督の言葉に、もちろん、それがいいんです、と返す。
取材の許可が下りた。

東北新人大会は明成が2年ぶり7回目の優勝を遂げる。宮城県や東北地方をカバーする新聞記者、バスケット専門誌の記者、ライターに囲まれた佐藤監督は、勝因を語るなかでこんなことを言っていた。
「(秋田・県立)能代工業の監督だった加藤三彦さんがこんなことを言っていたんです。『練習の雰囲気で試合をすれば、練習のパフォーマンスを出すことができる』と。それをウチもやったわけです」
個の力を発揮しながら組織で連動するオフェンスと、予測と判断を伴うハードなディフェンス。それらを併せ持つ明成の凛としたバスケットは、日々の練習の中で培われているらしい。
山形市商と同じように、宮城・仙台に行けば、その空気に触れられるかもしれない。4月、新入生も加わった明成の佐藤監督を、仙台市の北にある同校の体育館に訪ねた。

取材当日の仙台は雨がぱらついていた。仙台駅からバスに乗り、「明成高校」のバス停で降りる。学校のすぐそば、道路を挟んだところに明成の体育館はある。
学校職員のものであろう、大きな駐車場を抜け、体育館の入り口へと向かう。その入り口には、「礼儀を重んじない者の出入りを禁ず」と大書してある。それを見た瞬間、筆者の背筋が再びピンと伸びる。取材の許可が下りたからといって、ここから先も気は抜けない。
予定よりも少し早く着いたため体育館の前で待っていると、トレーナーも兼任する高橋陽介コーチがやって来た。
「久夫先生はもう少ししたら来ると思いますよ」

佐藤監督は現在、明成高校と同じ学校法人朴沢学園が経営する仙台大学の体育学部体育学科で特任教授を務めている。主にバスケット理論を研究し、コーチングや実技の指導もしているそうだ。そして大学での仕事が終われば愛車で明成の体育館――壁に「明仙バスケ・ラボ」と記されていたのは、明成と仙台大のバスケットを研究する施設という意味だったのか――に向かい、高校生たちの指導に当たる。

明仙バスケ・ラボはバスケットコート2面が優に取れる広い体育館である。壁には4枚のチャンピオンフラッグ(ウインターカップ)と、25着の、アンダーカテゴリーを含む日本代表のユニフォームが飾ってある。明成から選ばれた選手たちが着用していたものだ。
入り口近くの壁には国内外のバスケット指導者による語録や、明成の練習を見学し、感銘を受けた全国の指導者たちの礼状などが貼り出されている。時間があったので目を通させていただく。
〈なぜ、すべてを捨てる覚悟をした人がすべてを得るか?〉
〈他人を大事にする人が、一番大事にされる。『大事にする』とは、気にかけ、声をかけるということ。〉
〈スランプの先にこそ飛躍がある。〉

そういった格言めいた言葉も貼られていて、明成の選手たちはもちろん、明仙バスケ・ラボに訪れた人たちも明成バスケットの一端に触れられるようになっている。

そうしていると、授業を終えた選手たちが体育館に集まってきた。筆者を見るなり「こんにちは!」と大きな声をかけ、練習の準備に入っていく。そこには一般によく見かける、高校生同士が談笑しながら、練習開始を待つといった雰囲気はない。これから始まる厳しい練習に備えて、しっかりと準備をしておこうという、静かな気迫のようなものが感じられる。
体育館に入ってすぐのところにある木製のベンチの後ろにも、明成の強さが垣間見える。選手たちが、そろいのチームバッグをきれいに並べているのだ。「制服の乱れは心の乱れ」と言われていた中学時代をふと思い出す。バッグを雑に置いてしまえば、プレーも雑になるということか。
――と、体育館内の空気が少し引き締まる。

ガラガラッ。
佐藤監督が体育館に入ってきた。選手たちのひときわ大きな挨拶が響く。佐藤監督も手で挨拶を返し、自らの椅子に向かっていく。筆者もすぐに挨拶に向かい、体育館への出入り、練習見学を改めて許してもらった。
練習開始。
雨ということもあり、4月の仙台は少し肌寒かったが、選手たちはウォーミングアップで息を切らし、汗を滴らせる。始まって10分が経った頃には、はたから見ていてもわかるほどの緊張感が体育館内に充満していた。
聞こえるのは空調の音と、バスケットシューズが床にこすれる音だけだった。

文・三上太