能代カップ2018見聞録④ “市船らしさ”を体現する男

テレビドラマであれ、映画であれ、舞台演劇であれ、主にスポットライトを浴びる主役をより際立たせるのは脇役の妙味である。スポーツにおいてもそれは言える。誰もがうらやむスーパースターがより輝くために、地味なところで鈍く光る選手の存在は見逃せない。
むろん彼らも脇役のまま終わっていいとは思っていないかもしれない。「いつか俺もあのスポットライトの中へ」。そう思いながら、今日も泥にまみれる。
能代カップレポートのラスト2本は、チームの勝利に欠かせない“鈍く光る”脇役たちのお話――

3年という歳月は“少年”を“大人”に押し上げるのに十分なのか――。
能代カップの2日目、市立船橋は前日からスタメンを入れ替えた。前日、つまりは大会初日のオープニングゲーム、能代工業戦で30得点、その日の2試合目となる明成戦でも27得点をあげた大川颯斗をベンチに残し、碓氷真吾(うすい・しんご)をスタメンに起用したのだ。前日はそれぞれ4得点、6得点に終わった碓氷だったが、スタメンに起用された中部大学第一戦ではチームトップの16得点をあげている。
市立船橋を10年間率いた近藤義行の後を受け、今年度から指揮を執る斉藤智海はしかし、碓氷の得点力を評価して、スタメンに起用したのではない。
「昨日、2試合をやらせていただいて、両方とも勝つことができませんでした。そこにはどの選手にも気持ちの浮き沈みがあったんです。そのなかにいて、碓氷はメンタル的にも浮き沈みがなくて、自分の力を100%出すんだ、というよりも120%出すんだというプレーを練習からしてくれていたんですね。最近の練習ではずっと選手たちに“市船らしさ”を求めてきていたんですけど、それを一番体現してくれるのが碓氷だと思ったので、スタメンに起用しました」
碓氷のスタメン抜擢は彼のなかの“市船らしさ”にあったというわけである。

では市船らしさとは何か――端的に言えば、常にアグレッシブで、泥臭いことも最後までやり通すことができるか、だ。それは碓氷自身が常に心掛けているところでもある。
「自分には常に思っていることがあるんです。それはバスケットコートに10人が立つ中で、自分がシュートもパスもドリブルも一番ヘタクソだと思っていることです。だからこそルーズボールなどは誰にも負けないと思っていますし、そこは誰にも譲っちゃいけない。試合だけでなく、練習でも、です」
ルーズボールに飛び込み、2メートルを超す留学生を相手にも、182センチで、お世辞にもフィジカルが強いようには見えない細身の体でボックスアウトを張る。リバウンドへの意識は誰よりも高く、オフェンスでも積極的に飛び込んでいく。かつて「リバウンドは、行けば必ず取れるものではないけど、行かなければ取れない」と言っていたリバウンド王がいたが、碓氷はまさにそれを体現するかのように、ボールへの執着を見せていた。
碓氷のよさはそれだけではない。
彼をコートに残したまま、大川がコートに入ってきたときのこと。つまり薬丸侑平、大澤響生、大川という今年度の中心選手たちと碓氷が同じタイミングでコートに立ったとき、斉藤が指示を与えるまでもなく、碓氷はポジションを下げ、パワーフォワードの役割に転じていった。むろんそうした組み合わせも練習していただろうが、全国レベルのゲームのなかで、コーチの指示がなければ、混乱してもおかしくない。そこに碓氷の頭の良さ、バスケIQの高さがあると斉藤は認める。
「碓氷は穴を埋められる選手というか、気づいたところに率先して行動できる選手なんです。むしろインサイド、アウトサイドといった固定観念よりも、今の状況でチームに何が足りないのかを感じられる選手なので、中部大一戦では留学生を相手に泥臭いリバウンド争いをしたかと思ったら、終盤にはランニングプレーをする。かと思えば3ポイントシュートもしっかり決めてくれた。そういう意味では非常にいい選手ですよね」
その言葉通り、中部大一戦で碓氷は得点面でもチームに貢献している。手応えのあるゲームになったのではないかと向けると冷静に、しかし嬉しそうに返してきた。
「チームには薬丸、大澤、大川というシューターが3人いるので、そこにディフェンスが寄れば必ず自分のところが空くことはわかっています。そこで『(シュート確率)1分の1』を意識して、シュート力を上げていこう。そう近藤先生にも言われていたので、今日はそれができてよかったです」
打つ本数は3人のシューターたちに比べると少ないかもしれない。しかしその少ない本数の精度をあげることで相手チームにダメージを与えよう。口にするほど簡単なことではない。中部大一戦はそれが結果的にいい方向に転んだだけかもしれないが、それでも意識して取り組んできたからこその賜物だ。

メンタル的な浮き沈みがないと評価される碓氷だが、昨年まではベンチ入りしながらもコートに立つことはほとんどなかったという。能代カップも3年連続でベンチに入っているが、昨年まではメンタル的な弱さが指摘され、やはりコートには立てなかった。
「選手として波がすごく大きくて、その波の大きさに自分自身で泣いた日も多かったです。それでも近藤先生にはいろいろとお世話になったので、(初日だけ見に来ていた)近藤先生に能代カップで変わったところを見せたいという思いが強くて……」
そう振り返りながらも、斉藤からの評価を告げると「そこはやっと成長できたのかな」と笑顔が浮かぶ。
「でもやっぱり決めなければいけないところでフリースローを外していたので、そこはまだまだメンタルが弱いのかな」
フリースローの課題は斉藤も認める克服すべき点だ。
何もかもがすべてうまくいくはずはない。“市船らしさ”を体現できるメンタルを身に付けた今だからこそ、次はフリースローへの課題に取り組み、さらなるチームの底上げに努力してほしい。能代カップで鈍く光った碓氷なら、それができるはずだ。

文・写真 三上太