コーチ不在により選手自身がチームを作って臨んだ最後のインカレ──A東京入りが決まり、世界的コーチの下で開花されるポテンシャルに期待(明治大学〜アルバルク東京 #2 齋藤拓実選手)

大学生活最後の戦いに向かう前、「インカレ(全日本大学バスケットボール選手権大会)には良い思い出がない」と、明治大学の齋藤拓実選手はCS PARKの動画を通じて話していた。過去のインカレを振り返れば、1・2年次はいずれも準々決勝で敗れて6位。関東大学リーグ戦で9位となり、入替戦で辛うじて1部リーグ残留を死守した3年次は2回戦で敗れ、ベスト16止まりだった。
「ベスト16は良い結果とは思っていないし、もっと上を目指していました。昨年と同じ2回戦で負けてしまったのは非常に悔しいですし、後輩たちはただでさえ経験が足りていません。そのためにも勝って、さらに高いレベルを経験させてあげたかったです」
最後のインカレも第1シードの拓殖大学を相手に2回戦で敗れ、良い思い出を残すことはできなかった。

拓殖大学戦は序盤からリードを奪い、明治大学がペースを握り、ゲームは展開されていく。「2敗したリーグ戦では岡田とドゥドゥのところでやられていたので、そこに対する守り方を少し変えた」ことで、前半はリードして終えることができた。しかし第3クォーター、拓殖大学1年生スコアラーの岡田侑大選手とゲイ・ドゥドゥ選手にアジャストされると次々と失点を許し、リードを奪われる。追う立場となったことで、「リバウンドが獲れなくなり、セカンドチャンスをやられ、さらに自分たちのミスで自滅して逆転されてしまいました」と敗因を挙げ、相手の勢いを止められないまま69-79で敗れている。

コーチ不在──選手自身が考えてインカレに臨まねばならなかった現状

数々の難局を打開してきた齋藤選手だからこそ、流れを呼び戻す場面には自ずとボールを託される。最後も自らドライブで仕掛けていったがスティールされ、ダメ押しとなる失点を与えてしまった。
「今はコーチがいないため、セットプレーなどは4年生であり、ガードとして僕がもっとそこを突き詰めていかなければいけなかったです。ダブルチームやトリプルチームで守られてしまったときに、しっかりキックアウトできずにターンオーバーにつながってしまったのは本当に申し訳なかったです」
濱西康一氏の名がヘッドコーチとして記されていたが、実際は選手たち自身でチームを作っていたようだ。その言葉を聞いてすぐさま思い浮かんだのは、不朽の名作『スラムダンク』に登場する翔陽高校のプレーイングマネジャー、藤真健司である(詳細については割愛)。

齋藤選手が入学する前年、明治大学はインカレで準優勝し、過去9回の日本一を数える歴史ある強豪校である。だが、齋藤選手が入学した後の環境はけっして恵まれたものではなかった。「この4年間は毎年のようにコーチが変わり、1年間で2回変わることもありました」と言うほど指揮官の交代が激しく、落ち着かない状況を強いられてきた。

コーチ不在だったがゆえに自分のこと以上に、「ユニバーシアードやジョーンズカップなどの代表活動を通じて、いろんな経験をさせてもらいました。その知識を少しでもチームに組み込んでいこうとも思っていました。練習やミーティングでは、4年生同士で話し合いながら試合に向けて取り組んでいました」と選手自身が練習メニューを考え、試合に向けた対策をしなければならない。大学界全体を見れば、そのようなチームも少なくはないだろうが、日本一を争うインカレに出場するようなチームでは珍しく、逆に言えばあってはならない。しかし齋藤選手は、このような状況下だったからこそ、バスケットに真摯に向き合えたことに対してポジティブに捉えていた。

一方で、じっくりと4年間を通してコーチから指導を受けられる環境があれば、もっと成長できたかもしれないという思いがないわけではない。
「ガードとしてもっとコーチとコミュニケーションを取りたかったですし、もっといろんな意見を聞いたり、自分の考えを言うこともできたのかなと思います。それができなかった分、結果的にはいろいろと考えることができたことはポジティブに捉えています。でも、もしかしたらコーチがいた方が良かったかもしれません」

ユニバーシアード日本代表の活動を通して、陸川章ヘッドコーチ(東海大学)など多くの指導者と接することができ、「技術もそうですが、バスケットの試合に対する考え方はより良い経験ができ、成長することはできたのかなと思っています」と齋藤選手は話している。最後の対戦相手であり、同じくユニバーシアード日本代表のコーチであった拓殖大学の池内泰明監督は、「拓実はこれで終わってしまうけど、ずっと4年間がんばってきた選手。ユニバやいろんな選抜チームでも一緒に戦った仲間なので、これからも応援しているし、今後もがんばって欲しい」と試合後にエールを送っていた。

世界的コーチに磨かれる“未完の大器”

度重なるコーチ交代の中でもここまで成長し、実力を示すことができた。逆に言えば、しっかりとしたコーチの下で学ぶことで今後の成長が楽しみであり、まだまだ伸びしろしかない。そんな高い期待感を伝えると「ちょっとハードルが上がりましたね。がんばります」とクールな答えが返ってきた。

11月29日、特別指定選手としてアルバルク東京への入団が発表された。今週末12月2日(土)のシーホース三河戦からベンチ入りする予定だ。A東京のルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチには、大学生を集めて行われたスプリングキャンプでしっかりと基礎は叩き込まれているので、即戦力としても十分期待できる。また、すでに活躍する同級生の馬場雄大選手、そして3つ上ながらレベルアップするために大学4年次に海を渡ったことで一緒にプレーする期間が短かった先輩、安藤誓哉選手もいる。これまではなかなか叶わなかった教わること、そして自分の意見をぶつけるにはもってこいのクラブと言えよう。

インカレで敗れた後、頑なに行き先こそ明確にしなかったが、Bリーグでの意気込みを語っていた。
「外国籍選手を上手く使うことなど、実際にやってみないことには分からないですが、課題としてディフェンス力とシュート力はまだまだ足りないと思っています。試合を見ていても、フリーのシュートをしっかり決めている選手がやっぱり使われています。決定的なシュート力やフィニッシュ力は大事ですし、体が小さくても戦えている選手もいるので、そこは早く身につけられるようにしたいです。スピードに関しては、絶対に生きると思っています。そこからシュートに行くのか、パスをするのかという判断力が大事になります。スピードは生かさないと自分ではないとも思っています」

シーズン中の合流なので、ゼロから積み上げることはなかなか難しいかもしれない。だが、大学時代に培った対応力で短い時間ながらもツボを押さえる術は持ち合わせているはずだ。チームにとってもファンにとっても、天皇杯3次ラウンド敗戦は悲しい出来事であった。だが、齋藤選手にとっては天皇杯からオールスターブレイクの期間、チーム練習に十分な時間を費やすことができるのはプラスであり、大きなステップアップにつなげられる。

171cm/66kgと小柄な齋藤選手と、千葉ジェッツの富樫勇樹選手とのマッチアップを見られる日が今から待ち遠しい。同じ東地区同士であり、大晦日&元日のニューイヤーゲームをはじめ、まだ4試合残っている。それまでにA東京のスタイルを熟知し、プレータイムを勝ち獲る選手になって欲しい。いや、そうなれるはずだ、とさらにハードルを上げておこう。

アルバルク東京

文・写真 泉 誠一