ケガの功名で取り戻した『走るスタイル』(拓殖大学)

今年の女子インカレに出場した選手の平均身長は167.5cmだった。身長に恵まれた選手は大概、高校卒業と同時にWリーグに進んでいる。だが、留学生の場合は『通算5年以上日本国に在留していること』を要しなければならない。高校からやって来た多くの留学生はその条件をクリアするため、もちろん将来のためにも大学へ進んでいる。今回のインカレ出場選手の中で、唯一190cmを誇るのが拓殖大学の大黒柱、ロー・ヤシン選手だ。

頭上にあるゴールに得点を入れるスポーツゆえに、大きな選手が少なからず優位に立つ。190cmのヤシン選手を中心にチームを作ることは常套手段である。だが、過去3年間のインカレでは2年次のベスト8が最高であり、それ以外はいずれも2回戦で敗退している。ヤシン選手が4年生となり、勝負の年だったが、その大黒柱がリーグ戦後半にケガをしてしまった。練習に参加することさえできず、これまで積み上げてきたインサイドを起点にしたバスケットができない可能性もある。そこで佐藤ヘッドコーチはインカレに向けて方向転換を図った。

「4秒で攻めること」と水野妃奈乃選手が明かすように、スピーディーな走るスタイルに切り替えたのである。それにより、「みんな持久力もついて走れるようになり、今大会を通じてブレイクも出せるようになった」と水野選手は実感している。その成果として2回戦突破に成功した。スタイルを変えたことで台頭してきたのが加藤奈月選手である。決勝ではチームハイとなる24点を挙げた。佐藤ヘッドコーチは、「私の見る目がなくて使っていなかったのかもしれませんが、今のバスケットに彼女はフィットした。他の選手も本来の良さが出始めている」と走るスタイルに手応えを感じている。

選手に合わせるのではなく、チームのスタイルに選手を合わせて伸ばしていくことの大切さ

佐藤森王ヘッドコーチは「ベスト8に入ることだけを考えていた」と言い切っており、その後の早稲田大学、鹿屋体育大学、そして決勝の東京医療大学まで、相手に合わせるのではなくインカレに向けて準備してきた走るスタイルで対抗していく。だが、付け焼き刃のスタイル変更は、東京医療保健大学には通用しなかった。

序盤に連続失点から一気に点差を引き離されたが、その後は落ち着きを取り戻し、第1ピリオドは17-18と1点差まで追い上げている。だが、佐藤ヘッドコーチは「修正もできてなかったし、ゲームにならなかった」と厳しい。
「今回の決勝は力不足で申し訳なかった。相手と同じような走るバスケットをしなければいけない、とも思わされた。決勝は戦術云々の前に負けてしまっていたと思うし、もう少し歯ごたえのあるチームになれるように作り直したい。リーグ戦から東京医療保健大学には毎回教わっているつもりではあったが、やる度に力不足を痛感している。もう一回がんばって来いと言われているような試合だった」

ヤシン選手がケガしたことでスタイルを変えることができた。ヤシン選手が戻って来たことでさらに高さが加わり、決勝まで勝ち進めた大きな原動力になった。何より、佐藤ヘッドコーチはチーム作りにおける大切なことを思い出していた。
「これまではヤシンがいたからそこに合わせるバスケットをしてしまっていたんだなぁ。選手に合わせるのではなく、チームのスタイルに選手を合わせて活躍させていかなければいけなかった。走ってがんばれたことは今回のインカレの財産であり、本来の拓大がやってきたバスケットをきちんとやり直して、もう一度チームを作っていきたいです」

岐阜女子高校出身選手が奏でるケミストリー

拓殖大学には、今年すでに高校2冠を達成している強豪・岐阜女子高校出身選手が多い。コート上の4人をOGが占めるケースもあった。1年生の藤田歩選手にとっては、「高校から一緒にやってきた分、合わせる位置とかパスをしたい場所を分かってくれているので、そこはやりやすいです」。高校時代は入れ替わりの入学だった3つ上の「ヤシンさんというビッグマンをどれだけうまく使うことができるかを最初に考えていました」とチームを組み立て、そのホットラインにより藤田選手はアシスト王に輝いた。

初めてのインカレを通じて、「高校とは違って体の当たりは強いし、プレーだけではなくメンタル面ももっと強くなっていかなければなりません。特に東京医療保健大学の選手たちは体も強いし、スピードもシュート力もありました」と述べ、ライバルに負けないシュート力と体を強くすることを課題として挙げている。

拓殖大学は大きな柱は抜けるが、そのヤシン選手のおかげで大きな財産が残った。下級生が主体となるチームだったからこそ、今年得られたものをしっかりと継承できる。「来年こそリベンジしたいし、絶対に勝ちたいです。そのためにも安定したシュート力が必要です」と水野選手は気持ちを切り替えていた。「準優勝で終わり、悔しい思いをしました。来年はもっとレベルアップをして、次こそ優勝できるようにがんばりたいです」と藤田選手も続ける。
来年も岐阜女子高校から190cmがやってくるそうだ。だが、佐藤ヘッドコーチは自分に言い聞かせるように「同じような結果にしたくはない」と力を込めた。走るスタイルを磨き上げ、来年こそは2010年以来となる8年ぶりの日本一になることをしっかりと目標に掲げ、この舞台に戻って来てもらいたい。

文・写真 泉 誠一