光り始めた『ダイヤの原石』〜神奈川大学の2年生エース#75小酒部泰暉

見ていてワクワクする選手だ。2回戦で敗れた神奈川大2年生の小酒部泰暉は、ああもっと見たかったなと思わせる選手だった。昨年1部に自動昇格した際、幸嶋謙二監督は「リーグ戦ではひょっとしたら1勝もできないのではないかという不安がありました」と語るが、終わってみれば8勝14敗で12チーム中9位。もぎ取った8勝には小酒部の頼もしい成長があった。それを顕著に示しているのはリーグ戦の個人ランキングだ。得点部門4位(392点)、3ポイント部門7位(40本)、リバウンド部門10位(155本)、出場時間に至っては同じ神奈川大の4年生工藤卓哉に次いで2位。

「去年はベンチスタートだったんですが、今年はスターターとなってよく頑張ってくれました。オフェンスを注目されがちですが、実はディフェンスもかなりいい。リーグ後半に得点が落ちたのは、相手のエースとマッチアップさせたことも要因の1つだと思います。本人にも『これからはおまえがうちのエースだぞ』と言っていますが、それに応えるように着実に成長していますね」(幸嶋監督)

高校までは全く無名の選手だった。神奈川県の最西端、本人曰く「もうちょっとで静岡県になる」山北町で生まれ、「姉ちゃんがやってて、見に行ったら楽しそうだったから」という理由でバスケットを始めたのが小学3年生のとき。やればやるほどバスケットが好きになったが、中学、高校を通して全国大会への出場は夢のまた夢だった。当時はボール運びからインサイドプレーまでなんでもこなすオールラウンダーで、「ちっちゃな大会だったから」と前置きしながらも「中学の最多得点は54点、高校は52点です」と明かしてくれた。しかし、山北高校の最高成績は県大会1回戦突破。それもたった1度だけだ。「バスケットは大好きだったけど、自分が将来プロになるとか、なれるとか、考えたこともなかったです」

だが、そんな小酒部のプレーを初めて見たとき、幸嶋監督は大きな衝撃を受けたという。「彼が高校2年のときでした。身長は180cmぐらいだったと思うんですが身体能力が高く、とりわけジャンプ力がすごかった。ゴール下でバァーンと跳ぶ姿を見て、あっ、この子はダイヤの原石だと思いました」

一方、小酒部はというと自分が大学で通用するかどうかもわからず、進学先を決めかねていた。「幸嶋監督が1度うちの練習を見に来ないかと声をかけてくれて、神大のバスケットを見に行ったとき、すごく雰囲気が良かったんです。活気があって、楽しそうで、ああこのチームに入りたいなと思いました」。当時、神奈川大は3部リーグに在籍するチームだったが、「1部とか2部とか、そういうことは全然気になりませんでした。さっきも言ったけど、チームの雰囲気が良かったのと、監督さんがすごくいい人だったことが大きいです。スポーツ推薦枠がありましたが、もしそれがだめなら、指定校推薦枠を使ってでも入りたいと思いました」

つまりは“相思相愛„で決まった入学。小酒部の加入を待つかのように神奈川大はその1年前に2部昇格を決め、期待のルーキーは2部リーグの水でプレーを磨き、1部の舞台で自分を試す2年目のシーズンを迎えた。

「今年1部に昇格して感じたことは、やっぱり1部のチームはフィジカルが強いし、ディフェンスも激しいということです。だけど、そういう中でプレーすることはキツいけど楽しい。自分の引き出しを増やすことも課題の1つで、ドライブとジャンプシュートだけじゃ守られてしまうから3ポイントの精度を上げろと監督に言われたこともあり、リーグの途中から3ポイントシュートの練習に力を入れてきました。今では得意なプレーは?と聞かれたら3ポイントシュートと答えます(笑)」

普段は自他とも認める『おっとりした性格』だが、コート立ったとたんスイッチが入る。
「そうですね。オフとオンの差が激しいというか、コートの上では普段と真逆の自分になります。やっぱりバスケットだけは負けたくありません」

そんな小酒部を幸嶋監督は「ひとことで言えば“田舎の小学生„のような子」と、笑う。
「素朴で、ピュアで、おっとりしていて、だけどバスケットはひたむきに頑張る。時々びっくりするようなミスもしますが、決してめげない。見ていると、この子は本当にバスケットが好きなんだなあというのが伝わってきます」

今大会、39分間リードを奪いながら残り1分の攻防に敗れた青山学院大戦のあとは「前半は自分のシュートも当たっていていい戦いができていたのに、後半フェイスガード気味に付かれて体力が消耗してしまいました。力不足です」と、悔しさをにじませたが、「今までいつもいいところでパスをくれたり、ズレを作ってくれたりする先輩たちに助けられてきたので、来年は自分がエースとしてもっとチームを引っ張れるよう頑張りたいです」と、続けた言葉はすでに前を向いていた。

3年間で9cm伸びた身長と、それに比例するかのようにたくましくなったプレーと、ピュアでひたむきなマインドを持つエースがまたひとつどんな成長を見せてくれるのか。今から来年のコートが楽しみでならない。

全日本バスケットボール連盟
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文・松原貴実 写真・泉 誠一

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