怒りの涙(ジョージ・ワシントン大学 #12 渡邊雄太選手)

残り3分53秒、51-79。デヴィッドソン大学の一方的な展開に対し、モーリス・ジョセフヘッドコーチは白旗を上げるようにエースであり、キャプテンの渡邊雄太選手をベンチに下げた。この試合は58-87で終わり、前回の対戦(45-72)同様に大敗を喫した。ロッカールームから出てきた渡邊選手の目は、今にも涙がこぼれそうである。1年次から長年取材を続けているNY在住スポーツライターの杉浦大介氏は、「こんな悔しそうな渡邊くんを始めてみました」と驚いていた。

『メチャメチャ楽しみにしていた』ホームゲームは今シーズン最高の集客だったが、低レベルなミスで自滅

前節のドゥケイン大学戦は2点差で敗れたが、「久しぶりに最後まで試合ができたというか、40分間戦い切ったという感じがありました。今日の試合はそれもあってメチャメチャ楽しみにしていました」とモチベーション高く臨んだこの日のデヴィッドソン大学戦。ファンも同じように期待したのか、今シーズン最高となる4018人を集客した。立ち上がりは前節同様、アグレッシブに全員がゴールに向かい、さらに課題であった全員で守るディフェンスも改善が見られる。細かいミスから失点してもしっかりとオフェンスで挽回し、前半残り7分までは23-23の同点だった。

「そもそもトランジションディフェンスの部分でコミュニケーションが全然できていなくて、誰が誰をついているか分からない状態がここまで何試合もありました。それはコーチもずっと言ってきたことですし、みんなで意識していたはずなのに……」
言葉を詰まらせた渡邊選手が振り返る前半のその後は、相手に気持ち良くシュートを決められ、29-41と一気に点差が開かれてしまう。課題に挙げたトランジション時だけではなく、簡単にノーマークを作られて3Pシュートを決められたことが大きい。その状況を許せなかった渡邊選手はハーフタイム中、仲間たちに向かって怒りを吐き出した。

「あんなミスは小学生でも、どんなレベルでも起こしてはいけない。それがディヴィジョン1のレベルにおり、シーズン終盤の(チームとして精度が高まる)この時期であんなプレーが出ていることがどうしても許せなかったです」

その散漫な状況は、後半になっても立て直すことはできなかった。デヴィッドソン大学が得意とする3Pシュートを次々と決められ、開始3分で33-53。一気に20点差をつけられてしまった。今シーズンのジョージ・ワシントン大学は、点差が開いてしまうと追いつけない試合ばかりである。4年生としてゲームに出ているのは渡邊選手だけであり、1年生や転入生も多く若返ったことでメンタル面での踏ん張りがきかない。悪い流れを断ち切るためにヘッドコーチはタイムアウトを要求するものだが、現状は逆効果となってしまっている。点差が離されたときのタイムアウトを「諦め」と捉える選手が少なくないことも、渡邊選手の怒りを買っていた。

「負けるときは負けるし、勝負の世界の結果は分からないです。今は、負けたことに対して悔しいのではなく、僕らのような若いチームは本来ならば成長が見られる時期でもあるべきだと思いますし、そうではないといけません。チームとしてあのようなボロが出てしまうこと自体、成長できていないんだと思います。シュートが入るかどうかではなく、本当に意識次第で誰が誰をマークしているかと声を出せば一発で解決できる話なのに、それが現状としてできていない。自分の中に歯がゆさもありますし、こんなに試合に負けてこんな(悔しい)気持ちになっているのは初めてなので……」

攻守に渡って活躍する渡邊選手はコーチ陣から全幅の信頼を得る

孤軍奮闘の渡邊選手に対し、モーリス・ジョセフヘッドコーチは「雄太はよく戦ってくれている」と評価している。日本でのプレー経験を持つクリス・ホルムアシスタントコーチも「オフェンスでもディフェンスでも全てにおいて期待しているがために、こちらの要求もついつい多くなってしまいます。でも彼はひと言の文句も言わずに、チームの勝利のために戦ってくれています」と全幅の信頼を寄せていた。

ディフェンスにおいては、平均20点を挙げるデヴィッドソン大学のエース、ペイトン・アルドリッジ選手に対し、前半は渡邊選手がマッチアップしたときは得点を許していない。しかし、流れが傾いた後半の出だしでは、ディフェンスのコミュニケーション不足で簡単にスクリーンに引っかかってしまい、半歩チェックが遅れて3Pシュートでの失点を許してしまった。それでも、「1on1ではどんな相手でも守れると自分の中では思ってますし、それが強みでもあります」と言い切り、対峙したときは何もさせず13点に抑えている。

オフェンスでは逆に相手の平均点に並ぶ20点を挙げてチームハイ。3Pシュートは1本だったが、後半はペイントエリア内へ攻め込むことに切り替え、ひとり気を吐く。しかし、「自分がいくら点を獲っても勝たせられなければ意味がないです」と肩を落とす結果となった。

大逆転でのNCAAトーナメント進出も夢物語ではない!

アトランティック10(A-10)カンファレンス同士の対戦はこれで2勝8敗。14チーム中13位と低迷している。アメリカでの進学を決めたときから、世界一を決めるNCAAトーナメント(全米大学バスケットボール選手権)出場を目標に4年間努力し、挑み続けてきた渡邊選手。残念ながら昨シーズン、ゴンザガ大学の八村塁選手が先に日本人初のNCAAトーナメント出場を果たし、渡邊選手にとっては今年がラストチャンスである。

「まだ希望がなくなったわけではないですし、A-10カンファレンスのトーナメントで優勝すれば、1年生のときからずっと言ってるNCAAトーナメント進出も夢物語ではない」
NCAA各カンファレンスでのリーグ戦は順位を決めるだけ。それを制することでNCAAトーナメントに近づけるが、その時点では確約されない。3月7日から始まるA-10カンファレンス内のプレーオフとなるトーナメントで優勝すれば、目標をたぐり寄せることだってできる。それまで「あと1ヶ月しかない」と危機感を募らせていた。
「コミュニケーションの部分でディフェンスのミスが起きてしまい、簡単にシュートを決められてしまいました。また一からみんなが考え直さないと、今シーズンの残りの試合も同じようなミスがずっと続いてしまうのではないかということを今はすごく恐れています」

残り少ない試合数で、チームとしてひとつになれるかどうかだが、ジョージ・ワシントン大学はけっしてチームワークが悪いわけではない。コメントを残す渡邊選手に対し、帰路に着く仲間たちは肩を組み、声をかけていた。
「できる限りのことをして負ければ、納得して大学生活を終えることができますが、今の状態で4年間やってきたことが終わってしまうとすごく後悔のあるシーズンになると思うので、チームをひとつにまとめていきたいと思っています」

行き場のない悔しさに打ちひしがれる渡邊選手を見たのは、今回が初めてではない。尽誠高校卒業後の2013年、渡米前に日本代表としてフィリピンで行われたアジア選手権に出場。少ないプレータイムの中でもガムシャラにアタックし、少なからず爪痕を残していた。だが、結果は決勝トーナメントにさえ行けず、9位に終わる。あのときもベンチで頭を抱え、最後の試合を終えたあとは目を赤くしていたのを思い出す。誰よりも熱く、誰よりも負けず嫌いであり、そして誰よりも自分に厳しい。

残り8試合、アメリカに来てから最大の試練に見舞われている。次戦2月7日は9位のラ・サール大学と対戦。時間はないがキャプテンとしてチームを立て直し、勝利をつかんで上向かせることはできるか?この試練を乗り越えられた先に見える景色は、今よりも一段上のものになるだろう。

ジョージ・ワシントン大学
ジョージ・ワシントン大学/渡邊雄太ページ(協力:杉浦大介氏)

文・写真 泉 誠一