ラストダンスに花道を(トヨタ自動車アンテロープス)

昨シーズン、トヨタ自動車アンテロープスは準優勝したにも関わらず、今シーズンは移籍組と新人を合わせて6人の新戦力をさらに補強し、悲願のリーグ制覇へと邁進している。スター選手たちの競演がまばゆいコート上もさることながら、ベンチを見ればオリンピアンが後に控える豪華さだ。タイムシェアしながら、タレントたちを余すことなくドナルド・ベックヘッドコーチは起用し、一つひとつ勝利を積み重ねている。

国内でもフォワード起用される良さとは裏腹のキツさを実感

昨シーズンまでの富士通レッドウェーブでは毎試合30分以出場していた長岡萌映子選手。タイムシェアするトヨタでは20分程度に減ったが、「オフェンスもディフェンスもハイレベルなことを求められていて、コートに立っていて本当にきつい」と顔をしかめる。常に100%の力を出し切らなければ、控えはいくらでもいるタレント軍団。だからこそ一切気は抜けない。

日本代表同様にセンターからフォワードへコンバートし、ディフェンスの仕方が全く変わった。
「日本代表では大柄でパワフルな選手をマークすることはできていたとは思いますが、Wリーグのすばしっこい小さい選手をマークしなければいけないのは自分の中では本当にきつい。でも、これが新しい挑戦なんだなって思います」
チームで一番大きい182cmの長岡選手を、ベックヘッドコーチは世界仕様のままのポジションで起用してくれることがありがたい。
「トヨタは本当に特殊なディフェンスをしています。でも、それを学べることが移籍して一番良かったことですし、本当に良い環境です」

3年連続オールスターゲームへの出場を決めた長岡選手は唯一、東西両方のユニフォームに袖を通す存在である。
「昨年、EAST軍でJX-ENEOSの選手たちと一緒にプレーできたのも楽しかったですが、WEST軍はエンターテイナーが揃っているのでその中に入るのがすごく楽しみです。おもしろさやキャラクターを全面に出していきます!」

Wリーグ 三井不動産オールスター 2017-18 in TOKYO:12月16日(土)大田区総合体育館

ラストダンスを宣言した大神雄子の決意

今年6月11日、「今季を持って、個人の想いとしては、Wリーグでのプレーを自分自身のラストの集大成のシーズンにしたいと思っています」と流れてきた大神雄子選手の公式facebookを見て驚愕した。

引退がとなり合わせにある近年は、1年1年が勝負の年。今シーズンもコートに立つための「モチベーション」とし、「次のステップが見つかったこと」の2つが引退を公表した理由であり、「覚悟を決めた」そうだ。

しかし、コート上の彼女を見れば動きは良い。ベックヘッドコーチも「昨シーズン以上のパフォーマンスを見せてくれている」と太鼓判を押す。タレント豊富な今シーズンにおいて、「どこが自分たちの武器であり、今どこを支配できているかをガード陣は昨シーズン以上に明確にし、全員にエクスキューションしなければいけないバスケットを求められています」と新たな課題に向かって挑んでいる。「すごく勉強させられており、まだまだ下手くそだなと思わされる。だからこそ、まだまだ成長できると思うときがすごくあります」という話を聞けば、やっぱり引退は早いのではないかと思ってしまう。

大神選手も長岡選手も、ベックヘッドコーチが重視するのはチームディフェンスと声を揃える。「そこにみんなでフォーカスできれば、今日の第1クォーターのように支配できる」と大神選手が振り返る11月11日の東京羽田ヴィッキーズ戦では、最初の10分間で29-5と一気に突き放す爆発力を見せた。
「逆にちょっとでもディフェンスが崩れるとランスコアされて一気に離されてしまう危うさもある。新たに入った選手たちはみんな得点が獲れます。でも、フォーカスすべきはそこではなく、ディフェンスが大事。それを言い続けて引っ張っていかなければならないです」

大神選手はチームメイトを「若くてかわいい選手たち」と言うのとは裏腹に、経験は浅く「ひとつのミスで落ち込んでしまう」ところを危惧する。「シーズンを通しながら成長させ、安定した力を築いていかなければならないですし、それができるチームだと思っています」と長いビジョンで捉えており、最後に笑えれば良いというスタンスでドンと構えていた。

ここから2カ月間の戦いがチームを上向かせる分岐点

Wリーグは一時中断され、11月26日(日)には皇后杯第3次ラウンドが控えている。大神選手は「集中力だけは切らしてはならない。その後は三菱電機(12月2日-3日@愛知県体育館)、JX-ENEOS(12月9日-10日@福岡県)と上位対戦が続き、年明けの皇后杯決勝トーナメントへ続くこの時期こそがキーになる」とチームが上向くきっかけにしたいと考えている。

皇后杯を順当に勝ち進めば、年明けに行われる準々決勝で初めてさいたまスーパーアリーナでプレーする機会がやって来る。
「あのアリーナの雰囲気は独特です。東京オリンピックの会場であり、今後のバスケットの聖地になるべき場所です。選手たちは誇りを持って日本一を懸ける戦いをすることで、バスケット人気がさらに上がると期待しています。特に女子は世界でも高いレベルにいるわけだから、選手たちもしっかりと責任を持って言葉や行動でしっかりと示さないといけないですし、もっと多くの人に見てもらいたいです」

慕い続けた長岡選手の思い。覚悟を決めた選手たちを気遣う大神選手

大神選手の引退宣言より前に、長岡選手はその覚悟を知らされていた。「最後は一緒にプレーしましょう」と伝え、移籍を決断。遡れば、高校3年次に日本代表に選ばれた2011年から大神選手を慕い、バスケットに対する世界観を広げてくれた恩人でもある。
「一緒にプレーすることが実現でき、シンさん(大神選手)の最後の花道を飾って引退させられるようなことができれば良いなと思います。シンさんのようなリーダーシップであったり、バスケットボール選手として学ぶことはまだまだたくさんあります。シンさんから全てを吸収して、勉強していきたいです」

大神選手自身も有終の美を飾るイメージをしており、「それこそ最高のシチュエーションになる」。しかし、酸いも甘いもかみ分けるベテランは「そうならないかもしれない。でも、そこに向かって行くプロセスが大事」という現実も見ている。目下の優先事項は、来シーズン以降もトヨタでプレーする選手たちにしっかりと置き土産を残すこと。特に覚悟を持って移籍してきた選手たちのことを慮っていた。

「自分も移籍した身ですが、サン(三好南穂選手)やモエコ、(馬瓜)エブリンもすごい覚悟があったと思います。周りからどう思われているかがすごく恐いし、それは移籍した選手にしか分からない。でも、彼女たちがいつか移籍して良かったと思えるような時間を過ごせるように、チームメイトとして支えられたら良いなと思っています。今後のWリーグでは移籍も当たり前になるだろうし、今日もトヨタから羽田に移籍したユウ(丹羽裕美選手)とは試合後に握手をしてお互いを称え合いましたが、そういうことが自然にできるリーグであって欲しいです」

Wリーグを制するために必要なのはチーム力だ。193cm、規格外の渡嘉敷来夢選手がいるからJX-ENEOSが連覇しているわけでは必ずしもない。今夏、その渡嘉敷選手がいなくてもアジアで3連覇を果たした女子日本代表が高さだけではないことを証明してくれた。それは世界2位になった女子ユニバーシアード日本代表も、世界4位の女子U19日本代表も全てが仲間たちのためを一番に考え、チーム力で世界と対等に戦うことができたからこそ素晴らしい成績を残したのである。日の丸を背負う選手が多いトヨタだけに、これからますますチームワークを向上させ、さらに強いチームになっていくことだろう。
ラストダンスを宣言した大神選手の勇姿とともに、チームが成長していく過程をぜひ会場やネット配信されるW-TVでお見逃しないように。

トヨタ自動車アンテロープス
Wリーグ全試合無料配信「W-TV」

文・写真 泉 誠一