テンションが上がった初の凱旋試合(トヨタ紡織#33長部沙梨選手、JX-ENEOS#32宮崎早織選手)

Wリーグはホーム&アウェーではなく、全国巡業を行いながらバスケットの発展に寄与している。10連覇を狙うJX-ENEOSサンフラワーズに至っては、拠点である千葉はもとより関東圏でのレギュラーシーズンは2度しかない(次回は2月3日-4日に東京・大田区総合体育館にて東京羽田ヴィッキーズと対戦)。その機会を逃すまいと在京メディアも多く集まった埼玉県春日部市大会。この日の主役は春日部市出身の渡嘉敷来夢選手であり、オープニングセレモニーでは「かすかべ親善大使」に任命された。

JX-ENEOSの宮崎早織選手とトヨタ紡織サンシャインラビッツの長部沙梨選手も、セレモニーでは花束を受け取った埼玉出身の選手たち。地元埼玉県でWリーグの試合をするのは、3人ともこれが初めてである。宮崎選手は「緊張したけど楽しかった」、長部選手は「本当にうれしかったですし、9年間続けてきて良かった」とテンションが上がる試合となった。

結果こそ70-49と21点差をつけてJX-ENEOSが勝利。しかしその点差以上に、トヨタ紡織の健闘が光った試合でもあった。小さなトヨタ紡織は徹底的に体をぶつけ、渡嘉敷選手や大﨑佑圭選手をチーム全員で守る。攻めてはドライブモーションで相手ディフェンスを縮めて外からシュートを狙い、またはスピードに乗ってそのままゴールを奪う。第2クォーター終盤には3点差まで追い上げ、前半終了時点で36-31とJX-ENEOSを相手に5点ビハインドで凌いでいた。しかし後半、「(スタミナを)削られてしまいました」と長部選手は認めるとおり、武器である足が使えなくなったトヨタ紡織に対し、連続得点を挙げて突き放したJX-ENEOSが13連勝を挙げた。翌日の川越大会も91-66でJX-ENEOSが勝利し、2連敗を喫したトヨタ紡織は8勝6敗で7位へ順位を落としている。

「走って打開するプレーヤーになって良い雰囲気に持っていけるようにしたい」宮崎早織選手

「2番(シューティングガード)をやったり1番(ポイントガード)をやったり、どっちつかずな感じ」と宮崎選手が言うように、これまではガードとして3番手の起用だったためにその役割も薄れていた。だが、早々に藤岡麻菜美選手がケガで戦線離脱した今シーズンは、2番手のポイントガードとして起用されている。
「リュウさん(吉田亜沙美選手)もネオさん(藤岡選手)も、やっぱりポイントガードらしいポイントガード」だが、宮崎選手のベースはシューティングガードである。
「以前はドライブだけ、そこだけしか見えてなかったです。でも、4年もやってると相手もアジャストしてきて、やっぱりマークマンは下がって守ってきます。そこでどういうスクリーンの使い方をすれば良いかをリュウさんやネオさんのプレーを見て学んでいます」

昨シーズン、トム・ホーバスヘッドコーチ(現女子日本代表ヘッドコーチ)から「ミスが多すぎる」と怒られ続けた。佐藤清美ヘッドコーチにも、「スピードやシュート力はあるけどその前にミスをしてしまっては意味がない」と言われていた。細かく走り回る落ち着きのなさが宮崎選手のキャラクターでもあったが、「今シーズンは特にボールを大事にすることを心がけています。あまり無理はしないようにし、自分よりも得点を獲ってくれる選手は周りにいくらでもいます。その分、スピードで崩して行ってパスを出すことを心がけています」と落ち着いて周りを見てプレーできるようになり始めている。

その上で、チームメイトでありライバルでもある吉田選手や藤岡選手とは違うカラーのポイントガードを目指さなければならない。
「雰囲気が悪いときや重い展開になって走れていないときには自分が出て、走って打開するプレーヤーになって良い雰囲気に持っていけるようにしたいです」
ポイントガードとして明確な役割を任されている今、彼女らしさを生かしたスタイルを創造するためのターニングポイントに差しかかっている。

「目標を達成できていなかったことが一番の心残り」長部沙梨選手

後半はエネルギー不足で引き離されてしまったが、トヨタ紡織にとっては少なからず手応えも感じられた女王との戦いでもあった。
「受け身にならずに自分たちから仕掛けて行こうと話していました。ボールマンの動きを見ながら、自分たちから予測しながら仕掛けていくことを出だしは成功したと思います」

175cmの長部選手が193cmの渡嘉敷選手とマッチアップしたり、厄介な3Pシュートを決めてくる宮澤夕貴選手(182cm)を止めにいかなければならなかったり、ディフェンスでも大忙しだった。
「渡嘉敷さんの高さはやっぱり厳しいです。でも、そこで自分がズレを作って、相手を寄せてパスアウトすることができたり、1on1の部分でももう少しできることもあると思ったのでもっと自分から仕掛けていきたいです」
その言葉通り、12点だった春日部大会から翌日は21点へと得点を伸ばしている。

元日本代表の指揮官であり、シャンソン化粧品シャンソンVマジックでは14回、富士通レッドウェーブでもWリーグを優勝に導いてきた名将・中川文一ヘッドコーチがトヨタ紡織にやって来て6年目を迎える。「全然練習ができへん」と常々ボヤいていた中川ヘッドコーチ。少しずつ会社の理解を得ながら自ら求める環境へ改革を進めてきたことで、その成果が実り始めている。

中川ヘッドコーチのバスケットを吸収してきた5年間を経て、「選手たちもやるべきことは分かっています。だからこそ、自分たちからやることが大事です」と長部選手は言い、自ら実行する応用編の時期に差し掛かった。
「中川さんの指示が第一にはありますが、でも自分たちの中から出てくるものがないとさらに上にもいけません。コート上でプレーするのは選手なので、もう少し自分たちで判断をしたり、チームとして結束していけるようにしたいです」

これまでは得点面において長部選手に比重が偏っていたが、今シーズンは「全員が攻めて、全員が得点するバスケットを目指しています」と言うようにチーム力が向上している。
「私たちは身長がない分、機動力を生かして足を使ったバスケットをしなければいけないと中川さんからもずっと言われてきています。全員がどこからでも得点が獲れることが理想です。まだまだですが、そこを貫いていきたいです」

9年目にして初の地元埼玉県での凱旋試合を行うことができたが、昨シーズンを終えた後、長部選手は引退を考えていた。だが、「目標を達成できていなかったことが一番の心残りであり、それを達成したい強い思いがあります」と引退を踏みとどまり、気持ちを奮い立たせて今なお走り続けている。

「目標はベスト4以上!そこは絶対に行きたいし、もう何年もそこを目標にしてきたのでいい加減、達成したい。それだけです!」
1月5日、再び地元さいたまスーパーアリーナで行われる皇后杯準々決勝が、最初のチャンスである。
「相手はJX-ENOSです……。でも、自分たちのバスケットを貫いてやり通すだけ。もうぶつかっていくのみです」
目標まであと1勝に迫っている。

JX-ENEOSサンフラワーズ
トヨタ紡織サンシャインラビッツ

文・写真 泉 誠一