Wリーグの優勝を争う真剣勝負にはじめて立った新戦力たちの心境

一発勝負のWリーグ プレーオフは大方の予想通り、JX-ENEOSサンフラワーズが10連覇を飾って幕を閉じた。ファイナル4で涙を飲んだいずれのチームも、今シーズンは戦力が大きく変わっている。

デンソーは7人のルーキーが入って若返りを図った。シャンソンは藤吉佐緒里氏と元山夏菜氏が引退し、三好南穂選手(現トヨタ自動車アンテロープス)と近平奈緒子選手(現アイシンAWウィングス)は移籍したために主力が様変わりしている。その三好選手をはじめとした代表クラスを補強したのがトヨタだった。ルーキーたちは当然はじめてのプレーオフであるが、移籍組にとっても優勝争いにはじめて挑む選手がいた。レギュラーシーズンとは異なる雰囲気の中での真剣勝負を初体験した新戦力たちは、いずれも「緊張した」と口を揃えている。

『責任を抱えながらのプレーはすごい緊張した』
シャンソン #28 落合里泉選手

「昨シーズン、羽田(ヴィッキーズ)でベスト8に入り、そのときにはじめてプレーオフに出ています。でも、シャンソンでの今シーズンは負けちゃいけないというか、勝たなければいけないという責任や重圧というようなものを抱えながらプレーしていました。クォーターファイナルやセミファイナルの各会場に入ったときからすごい緊張していました。本当に緊張しかなかったです」

3位決定戦こそ行われたが、優勝を目指してシーズン前から準備をしてきた各チームにとって、負ければその目標が潰えることに変わりない。羽田時代は頂点を目標に掲げても、現実的にまだ遠いことがレギュラーシーズン中から突きつけられてきた。だが、シャンソンは違う。このプレーオフが終わる前までは、10連覇を達成した唯一のチームだった。

移籍してきた落合選手への期待は高く、丁海鎰ヘッドコーチは記者会見で「泣き虫ですよ」と言うほど追い込んでもきた。最後は笑顔で労いの言葉を贈る。
「苦労して、我慢して、それを乗り越えて今日は負けたけど良い仕事をしてくれた。ポイントガードらしくなってきたが、これからもっともっと変わる。もっともっと良い選手になる。そう信じている……褒めすぎたかな」

最後の3位決定戦は土壇場でトヨタに逆転され、ドラマチックな負け方をした。その経験も移籍しなければ味わえなかった。
「丁さんを信じて、仲間を信じて、今までやってきたことを全部出そうと思ってコートに立つことはできました。はじめての舞台でしたが、すごく楽しかったです」

【プレーオフ3試合平均スタッツ】
平均10.7点/FG 52.2%/3Pシュート50%/リバウンド6.7本/アシスト4.3本

『それでも自分が引っ張る立場にならなければならない』
トヨタ #0 馬瓜エブリン選手

アイシンAWから移籍してきた馬瓜選手にとって、「ずっとテレビの中で見ている世界」だったセミファイナル以降のプレーオフ。「いつも通り、いつも通り、と自分に言い聞かせていたのですが……」とクォーターファイナルの三菱電機コアラーズ戦から極度の緊張に苛まれていた。しかしスタッツを見れば三菱電機戦は16点、続くセミファイナルのデンソー戦では12点を挙げ、シーズン中と変わらない活躍を見せている。

ラストゲームの3位決定戦はトヨタにとっても最後の試合であり、何よりも大神雄子選手のラストダンス。緊張と気負いが空回りするのが手に取るように分かった。
「本当に、本当にシンさん(大神選手のコートネーム)のためにがんばろうって思ってました。今、自分がトヨタにいられるのもシンさんのおかげです。その気持ちを出そうとし過ぎてしまって、今日のオフェンスは全部空回りしてしまいましたね。とりあえずディフェンスをがんばろうという気持ちでいっぱいいっぱいでした」

はじめての優勝争いは苦い経験となった。「今後はシンさんが残してくれたものを継いでいかなければいけないと本当に思っています。いっぱい引っ張ってくれる頼もしい選手がいますが、それでも自分が引っ張る立場にならなければならないと思ってます」。この悔しさが、馬瓜選手にとっての大きな転機になるかもしれない。

緊張しまくりの姉・エブリン選手に対し、妹・ステファニー選手はノビノビとプレーオフを楽しんでいるようにさえ見えた。「そぉーなんですよぉーー。ホントにヤダ、アイツ(笑)」と妹の性格を妬む。姉は気を遣いがちである。しっかり者のエブリン選手はその持ち味を生かし、今後のチームを引っ張る力に変えていけば良い。

「思いっきりやっていたステファニーはそのままで良いし、それが強みですからね。自分は大丈夫です……でも、妹になりたい(涙)」

【プレーオフ3試合平均スタッツ】
平均10.7点/FG 35.8%/3Pシュート0%/リバウンド5.7本/アシスト0.7本

『積極的にシュートを打つことができました』
デンソー #88 赤穂ひまわり選手

JX-ENEOSには皇后杯も含め、今シーズンは一度も勝てずに終わった。ルーキーの赤穂選手は女王との差を率直にこう感じている。
「デンソーは波がある感じで、すごくハマって良い時は良いですが、ダメなときは足が止まってしまいます。でも、JX-ENEOSは40分間ずっと良い波の中で戦っている感じがしました。そういうところが強いなぁと思います」

はじめてのプレーオフは、セミファイナル時が「やっぱり雰囲気が違って緊張しました」と振り返る。その経験をしたあとのファイナルは思いの外、スムーズに入ることができた。4点しか挙げられなかったが、「途中でシュートが入らずにやめてしまった部分もありましたが、これまでよりも積極的にシュートを打つことができました。前はそれもできていませんでしたから」と成長を実感している。続けて、「次は決められるようにステップアップしてきます」と前を向いた。

シーズン平均11.6点、6.4リバウンド、全てを先発出場した赤穂選手が、新人王を受賞した。馬瓜姉妹同様、赤穂選手も姉・さくら選手と一緒にプレーをしている。新人賞の受賞式時、顔が似ているさくら選手がおどけてレッドカーペットに向かおうとした。もちろんウケを狙ってであるが、そのうしろで苦笑いをしていた妹の姿を見逃さなかった。
「そういうことやるよなぁ〜って思って見てました(笑)」
エブリン選手もさくら選手も、ガンバレ姉たち!

最後に新人賞受賞の喜びの声をどうぞ。
「シーズンの途中が全然ダメでしたので、最終的に獲れたらいいなと思っていました。その新人賞をいただけたのはうれしいです」

【プレーオフ3試合平均スタッツ】
平均10.7点/FG 40.8%/3Pシュート28.6%/リバウンド6.3本/アシスト1.3本

セミファイナルで女王に挑んだシャンソンの丁海鎰ヘッドコーチは、「力不足を感じている。今は同点だった第1クォーターだけで満足したい。でも、これを続けていけば、いつか勝てると信じている」。スタートダッシュを許したことをファイナルの敗因に挙げたデンソーの小嶋裕二三ヘッドコーチだったが、「ディフェンスはある程度、いや、かなり良かった。第4クォーターは意地を見せ、諦めずに戦ってくれたことが、今までのチームとは少し違う成長を遂げている過程だと感じた」。JX-ENEOSに対し、少なからず手応えを感じたライバルたちは変わりつつある。ファイナル4で敗れてしまったが、新たなチームにとって大きな一歩を歩みはじめたと期待したい。

プレーオフ時のスタッツを集計していくと、偶然にも3選手たちはいずれも平均10.7点だった。彼女たちにとってもここがスタート地点。来シーズンへ向けてどう上積みし、誰が10.7点を超えていくか。さぁ、競争だ!

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文・写真 泉 誠一