過去の自分たちを乗り越えることができた女王JX-ENEOS戦(日立ハイテククーガーズ)

逆転ブザービーターを決めた西澤瑠乃選手の冷静な判断

Wリーグは開幕から1ヶ月が経過し、全チームが8試合を消化した。今シーズンは22試合しかない短期決戦ゆえ、早くも1/3が終わったことになる。11連覇を目指すJX-ENEOSサンフラワーズが、唯一負けなしの8連勝で定位置をキープ。12チームで争われるWリーグは6チームを境にレベルの差が生じていたが、今シーズンは少し違う。

昨シーズン、ギリギリ8位でプレーオフに進出した日立ハイテククーガーズの藪内夏美ヘッドコーチは「近年希に見る混戦状態であり、それは下位チームが強くなってきているのではないか」と手応えを感じていた。もう一つの理由として、「上位チームは日本代表活動により、コンディションが整っていない影響もある」。昨シーズン2位のデンソーアイリスは3人の日本代表選手が選ばれたこともあり、5勝3敗と出遅れた感は否めない。逆に昨シーズンの下位チームは、上位チームから対戦がはじまっており、金星を挙げるチャンスでもある。少しずつ爪痕を残した結果、上位8チームが勝率5割以上と混戦状態だ。

日立ハイテクは前節、東京羽田ヴィッキーズと対戦。初戦は17点リードをされながらも後半に巻き返し、最後は#12西澤瑠乃選手がブザービーターで逆転勝利。アウェーながら緑色に染まった会場は歓喜に沸いた。「藪内さんから自分が行って良いと指示を受けていたので、最後のシュートを決めることしか考えてなかったです」という西澤選手は強気のドライブからシュートをねじ込み、73-71で勝利を決めた。残り38秒には69-69と同点に追いつくシュートを含め、ラスト3つの攻撃時はいずれも西澤選手が得点に絡んでいる。逆転シュートを決めた#28北村悠貴選手へのアシストは、敵陣からのロングパスだった。

「無理に早く攻めるよりは、一旦止めた方が良いかなと思っていました。でも、北村が前を走っていき、それをマークする丹羽(裕美)さんが見えましたが、自分に対して背中を向けて戻っている状態だったので、それであれば手を伸ばしても取られることはない。あとは北村を信頼してパスを出しました。もちろん残り時間のことも考えていました」

71-69とついに逆転し、残り時間は25.4秒。必ずもう一回攻撃のチャンスが回ってくることまでを考えていた好プレーだった。

ポジティブな変化が見られはじめている4シーズン目

藪内ヘッドコーチが日立ハイテクで指揮を執りはじめてから4シーズン目を迎え、ポジティブな変化が見られている。「チームが目指す部分を理解し、選手同士がアウトプットし合う場面がすごく増えた」と言うように、ベンチやコート内で声を掛け合うシーンが印象に残った。「これまでとは考えられないようなレベルの高い内容の話ができており、私までうれしくなる。これまでは『ゴメンね』ばかりだったが、そうではなくやるべきことをしっかり伝えるように言ってきた。4年目にしてようやくできるようになった」と藪内ヘッドコーチの指導が実りはじめている。

11月3日・4日に行われた女王JX-ENEOSとの対戦は、自分たちの成長を推し量る機会となった。過去3シーズンはいずれも80点以上を奪われ、30点差以上の大差で敗れている。自ら50点以上を挙げたのは2014-15シーズンの56-87の1度だけ。「チャンピオンチームであり、いつかは倒さなければならない相手」であり、通常であれば対戦相手の特徴を把握し、対策を練って次の試合に備える。だが、JX-ENEOS戦は「今日の対戦相手は過去の自分たちだ」と藪内ヘッドコーチは選手に伝え、向かうべき照準を変える。過去の対戦データをまとめ、平均40点ほどしか獲れないオフェンスと30点差以上引き離されてしまったディフェンス面など自らの課題を見える化して準備を図った。

1戦目は57-87。平均40点台だったオフェンス面を打破し、過去3年での最少得点差31点を1点下回ることに成功。しかし、乗り越えるべきハードルの高さはその程度ではない。西澤選手は「今までよりも点差を縮めることは今の自分たちならばできる」とチームを奮い立たせ、過去の自分たちにもう一度挑む。ドライブでかき回しながら得点を奪い、チームディフェンスで対抗していった結果、61-76と15点差まで詰めることができた。「今の自分たちを全部出し切ることができました」と西澤選手をはじめ、チーム全体が自信を得ている。それが羽田戦の逆転勝利を呼び込む布石にもなっていた。

羽田との2戦目は同じような展開だったが、逆転には至らず敗れている。現在4勝4敗で7位の日立ハイテクはこれから三菱電機コアラーズ、シャンソン化粧品シャンソンVマジック、トヨタ自動車アンテロープスと厳しい対戦が続いていく。ヘッドコーチを任されたときは10位だったチームを、昨シーズンはプレーオフ圏内へと押し上げたからこそ、必然的にもう一段上の目標設定となる。「プレーオフの勝利を最高の形として届けていきたい。プレーオフで勝利した景色を絶対に見せたいし、選手たちにも感じて欲しい。応援していただいている方と一緒に喜びたい」と藪内ヘッドコーチは最初のゴールを設定した。そこへ向かっていくためにも、過去の自分たちを乗り越えていかなければならない。

日立ハイテククーガーズ
Wリーグ

文・写真 泉 誠一